TexT;ぬらり(その他)

□ひとしずくの誘い
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「でさ、聞いてんのか、りゅうじー」
くどくどしい話し方に顔を見れば、妖怪は頬を赤くし、目をとろんとさせていた。
(うわ…)

「おい、奴良リクオ、酔ってんのか」
「なにー、酔ってなんかない」
「酔っ払い」
一言で切り捨てた竜二は、さてどうしよう、と嘆息する。

ここは花開院本家、例によって忍び込んだリクオが酒を差し出した。
竜二は大して酒好きではないが、まあ付き合ってやるか、と盃を受けた。
それが、こんな事態になるとは。

「弱いんなら、勧めたりすんじゃねえよ…」
「ばーろー、オレは弱くなんかないさ、百鬼を背負ってみせる男だか」
「はいはい黙れ」
悲しいかな、こういう手合いの相手は慣れている。
酒が抜けるまで休ませるしかないか、と算段していると、リクオの頭がぐらついた。

簡素な膳に向かって倒れた頭を、咄嗟に支えてしまったのは、竜二の反射神経の成せる技だった。

「んー、りゅうじ…」
もごもごと呟き、腕から胸へと移動してきたリクオに、竜二は複雑な顔になる。
「…何のつもりだ」
「りゅうじ、いい匂い…」
頬を赤く染め(酒のせいだ)目をうっとりと閉じ(酒のせい)胸にしなだれかかる(酒)妖怪は、まあ、ひいき目に見たら、可愛い、のかもしれなかった。
頭はずるずると竜二の膝に落ちる。

「……」
仏頂面に殺気もつけて、竜二はしばらく止まっていた。

「…いつまで寝てる」
「ん…」
酔っ払いの手が動き、竜二の背から首筋に這いのぼり、黒髪を掴む。
動きに逆らわず頭を下げた竜二は、リクオと唇を重ねた。
「竜二、会いたかった」
間近で開いた紅い瞳は、酔いを微塵も感じさせない。

「狸寝入りか」
「スキンシップだよ」
だって素面だったら、あんた、膝枕なんてしてくれないだろう?
笑ったリクオは、膝から落とされる前に竜二を抱きすくめた。





あとがき
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