TexT;ぬらり(その他)

□それぞれの風景
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リクオと竜二


「ねえお兄さん、誕生日なんだって?」
「中坊に言った覚えはないぞ」
「やだな、僕とお兄さんの仲じゃない」
返事の代わりに、竜二はぎろりとリクオを睨んだ。

「あー、待って、お兄さんとドツキ漫才したい訳じゃないんだ」
「なら消えろ」
素っ気ない相手に、リクオは肩を竦める。
「ちょっとくらい、お祝いしたかったんだけどなー」
「気持ちは受け取った充分だありがとう」
「棒読みで言う?ソレ」

「でも、そんな竜二が好きだよ」
「…てめ…」
「冷たくしてれば、僕が帰ると思った?」
逆効果だよ、囁きは突然耳の後ろで響き、竜二は思わず背後を振り返る。
「捕らえたくなる」

また死角から届く声に、竜二は一瞬、桜吹雪の中で惑わされたような幻想をみた。
白く染まった視界、見えないところから、声だけが響く。
「今は、自由にしてあげるよ…今は、まだ、ね」

「誕生日おめでとう、竜二」
頬に触れた唇を意識した時にはもう、子供の姿は消えていた。
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