TexT;ぬらり(その他)

□バスタイム・ラグタイム
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まだ肌寒い夜は、風呂で温まって寝るに限る。
一日の疲れと埃を流そうと、風呂場の戸を開けると。
「はあい、竜二」
浴槽から秀元が片手を挙げた。


「……邪魔したな」
くるり、きびすを返すと、
「待て待て待て!」
ちょっと、話だけでも聞いてや、と止められる。
「この状況で何を話すんだよ」
第一ゆらはどこだ、と問いかけて思い当たる。まさか。
「そうやで、これは夢や」

「…夢っつうか、お前の術中だろ。これ」
いやあ人聞き悪いわあ、と言いながら否定しない辺り、図星のようだ。
「たまには竜二と、二人きりで話がしたくてな」
だからって、風呂はないだろう。
「…思いでなんとかなる、だったか?」
言いながら白い襦袢を身にまとう。
あれ、眼福だったのに、と残念がる秀元が小気味良い。


「そもそも、お前風呂なんて知らないんじゃねえか? よく作ったな」
その昔の入浴方法はよく知らないが、現代の浴室と格段の差があることは分かる。
「そこは勉強や。人間、学習意欲は捨てたらあかん」
胸を張るご先祖様が、誇りに思えない。
「本で調べたり、実地調査したりしたんやでー」
しみじみと語る男は放っておいて、竜二は一つの可能性を思いつく。

「ってお前、まさかゆらと一緒に…」
仮にも実の妹だ、竜二の目が険しくなる。
「おお、怖い怖い。心配せんでも、ゆらちゃんとは入ってへんよ?」
嫁入り前の娘さんに、そんな無体はせえへんわー。
婿入り前の竜二なら、ちょっと見させてもろうたけどなー。
「…見るな!!」
ぱかーん、と檜の手桶が秀元の顎にヒットした。

「…ふ…やるな竜二」
「お前がアホなだけだ」
切り捨てて、いいかげんここから出せ、と言ってみる。
「ハイそうですか、で帰す訳ないやろ?」
断られるのも予想の内。
ここからが本題。
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