TexT;ぬらり(その他)

□純情ACTION
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子供の頃から、本家の竜二、というのは特別な存在だった。
周囲の囁きにもよく出る名前。

妖怪退治のため特殊な才を要求される一族に生まれ、幸い頭角を現すことができた。今では、次期当主も噂されるほど。
それでも本家は別格だったし、ましてや自分と同世代の男子、才能もあるとなれば、意識しないほうが難しい。
しかし、それは自分だけだったかと、時々秋房は思うのだ。


「竜二」
訪れた本家の庭先で、竜二を見かけた。
縁側から声をかけても、ちらとこちらを見やっただけだ。
「…ああ、来てたのか」
気のない返事にすこし落胆し、そのことに秋房は驚く。
それきり竜二は何も言わず、秋房もなんとなく言葉を探しあぐねて、沈黙が漂う。

この位置が、と秋房は思う。
縁側から庭の竜二を見下ろしている、この高低差が。
ふたりの感情の温度差のようで。
永遠に縮まることのない、距離に思えた。

耐えかねて口を開こうとした矢先、
とおく家人に呼ばれた竜二が動いた。
じゃあな、と軽い言葉を残して、後ろ姿が遠ざかる。
…ちり、と胸の底が焦げついた。


手短に用事を済ませ、書庫に向かう。
見ておきたい資料があった。
昼でも薄暗い書庫の扉を開けると、竜二がいた。
明かりもつけず、窓際で本を開いている。

「明かり、つけようか?」
いい、と素っ気なく返されるのを、どこかで予想していた。
動こうとしない竜二に、諦めに似た気持ちを抱いて目を離す。
さっさと済ませよう、そう思って本棚を眺めはじめた。

いくつか開いてみたが、目当ての本が見つからない。
首をひねり始めたころ、
「…これか?」
不意にかけられた声が、意外と近いことにうろたえた。
いつの間にか背後にいた竜二が、和綴じの本を掲げている。

「秋房、お前…八十流の歴史を学んで、どうすんだ」
竜二が持つのは、確かに探していたもので。
「…別にいいだろう、私は八十流の後継者だ」
手を出すと、竜二は案外素直に渡してきた。


「灰色の、八十流の後継者、か?」
「…どういう意味だ」
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