TexT;ぬらり(その他)

□ウナセラディ東京
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竜二は、あまりくじ運がよろしくない。
しかし懸賞が好きで、小物を狙って出せば、時々当たることもある。
つまり確率の問題だ、と竜二は魔魅流に説明した。(彼はたぶん理解してなかったが)

けれどその懸賞は。
竜二が観たかった映画の、試写会ペア招待券(出演者挨拶あり)。
倍率の高さは予想できたので、何枚か出した中の一枚が当選した。

竜二は内心小躍りしたが、関門が幾つかあった。
場所は名古屋会場。
しかも…当日、仕事が入ることになってしまった。
東京、浮世絵町の妖怪退治、妹への伝言。

結局、諦めざるを得なかった。


無駄になりそうなチケットを見て、溜め息をつく。
視線を庭に向ければ、珍しく雅次がいた。
へえ、と呟いた竜二の口に笑みが浮かぶ。
チケットを持ち、雅次の許へ向かう。

「よう雅次、珍しいな」
「竜二か…慶長の封印が落ちたからな。これから忙しくなるぞ」
立ち話を幾つかして、竜二はさも、今思い出したふうにチケットを取り出す。
「…お前、この映画観たくないか?券が当たったんだが、ゆらの所へ行く日と重なってな」
雅次の長い指が紙をつまみ上げ、しげしげと眺めた。

「ああ、これは秋房が行きたがってたな。私も観たかったが…名古屋か」
「ちょっと遠いが、気晴らしにはなるだろ。ちょうどいい、二人で行って来いよ。券も無駄にならなくてすむ」
それとも女と行くか?と竜二がからかうと、雅次も笑った。
「それも悪くないがな…まあ、今回は秋房で我慢しておくよ」
「ああ、そうしてやれ。泣いて喜ぶんじゃねえの」
「それは…ないだろ」


そして、当日。
浮世絵町で妖怪退治をしながら、竜二は時計を確かめた。
試写会の時間。
魔魅流に周囲を任せ、携帯を取り出した。
るるる、るるる、るるる。
軽い呼び出し音の後、相手は留守電に切り替わる。
「…秋房、オレだ」

努めて淡々と、落ち着いた声を作って竜二は喋る。
「いま東京に来てるんだが、ちょっとお前の声が聞きたくなってな。留守ならいい、またかけるよ」
プツ。
短い伝言を済ませ、竜二は上機嫌で魔魅流に合流した。

「魔魅流、今夜は好きな物を食べていいぞ」
「…?」
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