TexT;ぬらり(その他)

□ウナセラディ東京
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試写会が終わり、満足して会場を出た雅次の横、秋房は携帯を確かめた。
着信と伝言が一件。
雅次に断って携帯を耳に当てると、みるみるうちに赤面する。
「…竜二…!」

「なんだ、どうした?」
足を止めて尋ねた雅次に、秋房は携帯を渡した。
内容を聞いて、雅次も固まる。
(竜二…これが狙いか…!)

(秋房が絶対留守電の時に…しかも旅情編!)
噴き出したいのを堪えて、できるだけ冷静に携帯を返した。
「…竜二か」
「ああ、そうらしい…ちょっと、かけてみてもいいか?」
落ち着かない秋房に、いいよ、と言って、雅次は展開を見守る。

急いで携帯を操作した秋房が、笑顔になった。
竜二に繋がったようだ。
「竜二か、私だ…電話ありがとう、出られなくて悪かった」
「ああ、今は名古屋だ…え?東京に?」
「魔魅流も一緒だろうな?…いや、いいよ、行こう」
「問題ない、大丈夫だ。着いたら連絡するよ…うん、後でな」
携帯を閉じた秋房が向き直った時、雅次にはほぼ予想できていた。
「雅次…すまない」
「どうした、秋房」
知らないふりで聞いてみる。

「ちょっと、東京に行くことになってしまって…悪いが、ここで別れてもいいか?」
「竜二か?」
「…ああ」
申し訳なさそうな秋房に、雅次はそれ以上追及しなかった。
「しょうがないな、行って来い。貸しだぞ」
わざとらしく溜め息をつくと、顔を明るくした秋房が、恩に着る、と言って走り去る。


後ろ姿を見送って、雅次は携帯を取り出した。
「…竜二、私だ。秋房は今向かったよ」
電話の向こうで笑う気配。
「一人にさせて悪かったな、雅次」
「悪いと思ってないだろう、お前は」
伝言を思い出して、笑みが零れた。

「あんな伝言、今度は私に欲しいものだな」
「お前は引っかからないから、つまんねえんだよ」
うそぶいた竜二に、まあいい、と告げる。
「帰ったら、埋め合わせはしてもらうぞ」
だから、早く帰って来い。

通話を終えて、自分も大概竜二に甘い、と自嘲する。
空いた時間で、竜二の好きそうな土産でも探してみようか。
今頃新幹線の中だろう、秋房のことを笑えなかった。





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