TexT;ぬらり(不倫依存症)

□予告編1
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しばらくして駅で竜二を見かけたときは、魔魅流は今からの講義なんて放り捨てて走った。
「竜二!」
大声で呼んで、聞こえなかったらと不安になって、もう一度叫ぼうとしたら、竜二が振り返った。

怒ってはいないらしい表情に安堵して、でも浮かぶ戸惑いの意味が分からなくて。
聞こうとしたら、横にいた男に話しかけられた。
「君が、魔魅流君やね?」
やけに慣れ慣れしく笑いかける男と、何も言わない竜二を見て、魔魅流も気づく。
(こいつが…竜二の)

「竜二が、いつも君のことばっかり話すんや」
「図書館で会うたとか、お茶したとか、今日は口説かれたとかな」
「はァ?!」
聞き流せない一言に声を発したのは、二人同時だった。

「待て秀元、どこからそんな大嘘が出るんだ」
眉間の皺を増やした竜二が、しみじみと嘆息する。
魔魅流も呆れながら、秀元の名を頭に刻み込んだ。
「え?まだ魔魅流君、口説いてへんの?」
「当然だ馬鹿、てめえほど頭の沸いてる奴はそういねえよ」
渋面を作る竜二と愉しそうな秀元に、魔魅流の胸がつきりと痛む。

「なんや、えらい必死な顔して走ってくるから間違うたわ」
けらけらと笑う秀元は、魔魅流に向かいあう。
「でもな魔魅流君、竜二は僕の奥さんやから、手ェ出さんといてな」
覗きこむ目に笑みはなく、威嚇に満ちていた。
思わず腰の引けた魔魅流に、視線を緩めた秀元はまたけらけらと笑う。
そっぽを向いている竜二は気づかないのだろう、秀元の目は最初から笑ってなどいなかった。
 

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