TexT;ぬらり(不倫依存症)

□甘い嘘
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「竜二、私はお前が気に入っているんだよ」
雅次が囁くと、現実を拒否するかのように閉じられた竜二の瞼が震えた。
「目を開けなさい。…お前を抱いているのは、私だ」
耳に落として律動を再開すると、噛みしめた唇から切ない声が漏れた。


雅次は秀元の友人だった。
今も腐れ縁が続く、と本人たちは笑う。
秀元の紹介で竜二が会ったのは、結婚してしばらく経ってからだ。

家で何人か集まって飲み会をする、と秀元に聞かされた日、あいにく竜二には予定があった。
他との兼ね合いで日程はずらせず、結局宴もたけなわの頃に帰宅した。
既に出来上がっている酔っ払いたちに馴染めなかった竜二だが、全員(秀元まで)潰れた後、ひとり残ったのが雅次だった。

酔い潰れた秀元をリビングのソファに押し込む。
雅次はベッドまで運ぶと言ったが、竜二には、寝室に他人が入るのが気恥ずかしかった。
しかし自分一人では運べないので、手近なソファですませた。


冷蔵庫で忘れられたシャンパンを思い出したのは雅次だった。
あまり飲まなかった竜二を気遣ってか、飲み直したいと言ったのを、竜二は止めなかった。

リビングで寝る友人たちを起こさないよう、ふたりはキッチンに入る。
初めて会った男が、丁寧な手つきで栓を抜くのを竜二は見ていた。
思えば、このキッチンで秀元以外の男を目にするのは初めてだった。

知らず秀元との違いを探して、細部まで観察している自分がいた。

手が大きい、秀元と同じくらい?
肩が広い、秀元よりも?
背の曲線は、雅次のほうが堅そうだ(筋肉質?)
…眼鏡は、秀元にはない、

「どうかしたか?」
かけられた声に、竜二は我に帰る。
いや、なんでも、と口ごもるとグラスが渡された。軽く触れ合わせて口に運ぶ。
何も言わなくていいように。
さっきの視線を気づかれないように。
(あんな、熱のこもった)
今さらながら、恥ずかしい、と思った。
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