TexT;ぬらり(不倫依存症)

□レイニーブルー
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魔魅流の部屋。
響く水滴の音に、竜二は目を上げた。
「雨か」
「うん」
同じことを考えたのか、間髪入れず返した魔魅流をちらと見やって、開いた本に視線を戻す。

並んだ文字を追っていると、視界のすみで魔魅流が横になるのが見えた。
「魔魅流、寝るならベッドに行け」
動かなくなる前にと、注意だけしておく。
「ん…」
鈍い返事にわずか苛立ち、竜二は本を閉じた。

「…何してんだ」
魔魅流は丸まっている。
「雨、だから」
「はあ?」
何言ってんだてめえ、と悪態をつきかけて、魔魅流の言葉の意味に気づいた。
「低気圧か」
「…しらない」
気分が悪いのが、目を閉じた魔魅流はおざなりな返事をする。

魔魅流は低気圧に弱いたちで、雨が続いたり嵐が来るとぐったりする。
頭痛や倦怠感に襲われる、らしいのだが、その気のない竜二には理解しがたい。
理解はできないが、まあ体調が悪いというのはわかるので、一応竜二は気遣ってみる。

「じゃ、帰るわ」
そっとしておいてやろうと、竜二は玄関に向かう。
「…帰らないで」
背後でぼそりと呟く声がして、足が止まる。
「帰らないで、おねがい」
振り向かない竜二の背に、頼りなげな声が追い縋る。

(…帰るなっつってもな)
ドアを睨んだまま、竜二は眉間にしわを寄せた。
秀元は今日明日で帰る訳ではないが、たまに夜、電話をよこすことがある。
常に留守電設定にしてあるから、すぐ出なくてもいいのだが、後で言い訳を作るのも面倒だ。

夜間の外出は滅多にしないことを知っているから、尚更。
その点、雅次に呼び出される夜に秀元からの連絡が入ることはまずなく、確認をとっているんじゃないかと竜二は疑念を抱いている。
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