TexT;ぬらり(不倫依存症)

□衝動・後
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早朝、タクシーで帰宅した竜二。
見なれたはずの家の前に、見なれない、魔魅流が立つ光景。


心配する雅次を無理に帰し、竜二は魔魅流へ歩み寄る。
気づいた魔魅流が、ぱっと表情を明るくしたが、足は動かなかった。
そのまま近づいた竜二は、魔魅流の横をすり抜け、門扉に手をかける。

言葉も、一瞥すら与えず。

淀みない足音が屋内に消えていくのを、魔魅流は唇を噛みしめて聞いた。


それから数日、魔魅流はあちこちに現れた。
門の前に立っていることもあったし、店の中で見かけることもあった。
いつも魔魅流は無言で、竜二は視線も合わせず、いないかのように振るまった。

「それは、ストーカー行為だろう」
電話の向こうの雅次は呆れた声だった。
やはり心配だ、とかかってきた電話に竜二は簡潔に事実を告げた。
「警察に言うか?なんなら私が連絡してやるが」
「いや、いい」
そこまでのことじゃない、と渋る雅次を説き伏せ、竜二は溜め息をつく。
せめて秀元が不在でよかった。

また数日して、魔魅流は姿を見せなくなった。


秀元が帰宅したのは、そんな頃だった。
いつものように過ごし、笑っていると、魔魅流のことは夢だったような気さえした。
雅次も一度遊びに来たが、小声で安否を問うただけで、あとは秀元と笑い合っていた。

そうして、秀元が行ってしまうと、竜二はまた家に独りで残される。
不機嫌と少しの笑顔で秀元を見送ると、あとはもうすることがない。


ポストに届いた郵便物に紛れ、切手も差出人もない封筒を見つけたのは、その後だった。

ネットで検索したのか、料亭のHPがプリントアウトされた紙。
地図の横、日付と時間が走り書きされ、待っています、と一言。
魔魅流、と署名された字に、竜二は長いこと見入っていた。
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