TexT;ぬらり(不倫依存症)

□うたかた
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「オレ、猫飼おうと思って」
魔魅流がそんなことを言い出したので、竜二はすこし驚いた。
「猫?」

「うん、真っ黒な子猫、竜二みたいな」
目の前にいるかのように、魔魅流は、こんなの、と手ぶりで示す。
魔魅流のベッドに腰かけた竜二は、床に座った魔魅流の仕草を眺めた。
「…なんでオレが出てくる」
「え、だって竜二がいない間、寂しいんだもん」

「竜二の髪みたいな真っ黒な毛並みでさ、ちいさい猫がいたら、可愛いと思わない?」
言われて竜二も考えてみる。
黒い子猫が部屋を走り、ミルクを飲み、(もしかしたら)同じベッドで眠る。 退屈はしなそうだ。
…自分の家にいても、いいかもしれない。

「ふうん…」
呟いた竜二に、魔魅流が、あ、と声をあげる。
「でも、竜二は飼っちゃダメ」
「…何でだ」
せっかくの夢想を壊された竜二は、不機嫌な声になった。
「だって、そんなの飼っちゃったら、竜二がオレに構ってくれなくなる」

「…お前、猫に嫉妬すんのか」
いささか呆れ気味に言うと、魔魅流は素直に頷いた。
「だって、会えるときは、竜二を独占したいんだ」
いつでも、ではなく、会えるとき、と口にした魔魅流の心情を思って、竜二の胸が詰まる。

柔らかく見つめる視線を受け止め、竜二は栗色のつむじに口づけた。
「そんなら、てめえも飼うな、魔魅流」
ええー、と不平を漏らす唇に指を置いて黙らせた。
「…オレが、お前を独占できねえだろ」

了解した魔魅流が笑って抱きしめてきて、竜二、かわいい、と甘い声が降る。
かわいい、だいすき、と言葉は雨のようにたくさん降って、いい加減にしろ、と竜二が笑い出すまで、それは続いた。




あとがき
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