TexT;ぬらり(不倫依存症)

□銀のしずく、降る
2ページ/3ページ

程なくして、見覚えのある白い顔が覗いた。
どうぞ、と開かれた扉に竜二はしばし立ちすくむ。
相手は小首をかしげた。

「何か?」
「…背が高い」
下から見上げた時には判らなかったが、相手は竜二の身長を軽く越えていた。
ああ、と頷いて訪問者を迎え入れながら、前はモデルをしてた、と言う。
言われてみれば納得できる美貌と体躯だった。

「今は主婦をして、お金を稼いでる」
「主夫?既婚者か」
「結婚して、ダンナさんがいるよ」

「あなたの名前、聞いていい?」
「竜二」
「りゅうじ、竜二ね…。僕は魔魅流」

「何の為に呼んだんだ、魔魅流」
「火遊び」
「……」

雨の音が響いた。

「金目当てか?」
「違う、遊ぶだけだよ。ダンナさんいなくて、退屈だから」
「……」
「それとも竜二、男は抱けない?」

なぜそこで、拒否しなかったのか。
婉然と細める瞳は、とろりと倦んでいた。

魔魅流の身体はどこまでも白く、喜悦に震えるさまは他の男の存在を雄弁に物語った。
優しく育まれ疑うことを知らない、素直な快感に竜二は我慢ならなかった。

雨は一日じゅう降り続いた。


「雨が降ると、お前を思い出す」
うそぶいた竜二が、すうと白い背を撫でる。
「どうして、また俺を呼んだ?」
その日も雨が降っていた。

「どうしてだろ…ずっと、竜二のことが気になって」
魔魅流は長い睫毛を伏せ、浮気したのは竜二が初めてだから、と告白した。
「気持ちがふわふわして、もう一度寝たら分かるかなって」

ところどころ指でつまみ、魔魅流の肩が揺れるほど痛覚を刺激しては離れる。
「甘ったるい顔しやがって」
静かに吹き込まれた言葉と同時、新たに走った痛みに魔魅流は眉をしかめた。
「だめ、痕…ついちゃう」
きりと立てた爪は痛覚を刺激しているだけなのに、魔魅流の瞳はうっとりと潤んだ。

「お前の望みだから、しょうがない。コレが好きなんだろう?」
離した爪の後、赤くなった箇所を舌で舐める。
口の端を上げた竜二は優しく囁いた。
「傷つけてやるよ、魔魅流。痕なんて残らないように、うまく」
心まで刺さるように。
宙空に漂う恋心を、貫いて逃がさないように。

掴み所のない気持ちをふわふわと持て余しているのは、竜二の方かもしれなかった。





あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ