TexT;ぬらり(パラレル)

□人魚の家
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海が荒れているのは、人魚が遊んでいるから。
見つかると攫われるから、けして出てはいけないよ。



魔魅流の家に、人魚が来た。
漆黒の髪と瞳の人魚。
嵐の夜、法度のはずの漁船の網にかかっていたという。
人間を見るなり呪詛を吐いた人魚に怯え、小心者たちは網元である魔魅流の家に持ち込んだ。
今、人魚は奥まった水牢に隠されている。

周りの大人たちが腫れ物に触るように扱う中、ひとり魔魅流は平気だった。
だって、こんなに綺麗。凍てついた星を宿したような瞳。

「…ねえ、人魚」
いつしか自分の担当になった、膳を運びながら、今日も話しかける。
「ごはんを置いておくよ。この煮付けは美味しいんだ、食べてみて」
窺うと、水中から顔を出した人魚が不機嫌そうだ。

「俺がいたら、嫌?」
人魚、何か言ってよ。
「…………竜二、だ」
一瞬呆けてから、名前を教えてくれたと気づいた。
ぱっと、顔が明るくなる。
「りゅうじ、」
呟くと、水から上がった人魚がこっちを見る。
「俺、俺はね、魔魅流」
勢い込んで名乗り、人魚の唇がまみる、と動くのを嬉しげに見つめた。

それから、魔魅流と竜二はいろいろな話をした。
大きな網元の跡取りとして、大切に育てられた魔魅流は世間知らずで。
竜二の教えてくれる、海の様子も知らないことだらけだった。
魔魅流が地上のことを、拙く説明するのも、竜二は辛抱強く聞いてくれた。
何でも良かった、竜二と話せるなら。


ある日、魔魅流が困った顔でやって来た。
時化が続いて、船が出せないのだという。
迷信深い年寄りは、人魚のせいだと囃したてた。
殺してしまえという声まで出ている、らしい。

「…はっ、なんで俺のせいだよ」
「だって…、最初に呪いの言葉を言ったって…」
自分のせいではないのに、魔魅流は大きな体を縮めて済まなさがる。
「はぁ?あんなもんに、効力なんてあるか。ただの悪態だ、腹が立ったからな」
竜二の口が悪いのは、魔魅流がよく知っている。
「…いや、待てよ」
ふと、竜二が何か思いついた顔になる。

「魔魅流、お前行って、俺が呪いを解いてやる、と言って来い」
ただし条件がある。
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