TexT;ぬらり(パラレル)
□てぶくろを買いに
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寒い冬でした。
毎日冷たい雪が降って、きつねの子、竜二は、さむいさむいと言いました。
「兄さん、お手てがつめたいよう、お手てがちんちんするよう。」
きつねの兄さん、魔魅流は、竜二の手を自分の手で包んで、温めてやりました。
「冬だからね。人間のように、てぶくろがあればいいのにね。」
「てぶくろ、欲しいよう。」
よしよし、と魔魅流は竜二の片手をしばらく握りました。
離すと、握っていた手は、人間の手になっていました。
竜二は目を丸くして、握ったり開いたり、眺めたり、においを嗅いだりしました。
「兄さん、これなあに?」
「これはね、人間の手だよ。」
てぶくろを買うには、人間の店に行かないといけないけれど、人間はこわいんだよ。
きつねを見つけたら、捕まえて、檻に入れてしまう。
だから、この人間の手を出して、てぶくろを買っておいで。
いいかい、決して間違えてはいけないよ。
青い夜でした。
白く積もった雪が、月の光にきらきら光っている夜でした。
竜二は、人間の手に白い銀貨をしっかり持って、お店に向かいました。
道々魔魅流がよっく教えてくれたので、てぶくろ屋はすぐにわかりました。
トントン、と戸をたたく音がします。
「誰だ、こんな夜更けに。」
てぶくろ屋の秋房は、戸を少し開きました。
白い雪の上に、中からこぼれた黄色い光が、さあっと帯をつくりました。
急に光が当たって、目がくらんだ竜二は、思わずきつねの手のほうを、差し出してしまいました。
「このお手てに、ちょうどいいてぶくろ、くださいな。」
あんなに兄さんに言われていたのに、忘れてしまったのです。