TexT;ぬらり(パラレル)

□てぶくろを買いに
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秋房は、差し出された小さなきつねの手を見て驚きました。
けれど、すぐに、
「ははあ、これはきつねが悪戯しに来たな。木の葉のお金で買うつもりかしら。」
と思ったので、
「先にお金をください。」
と言うと、竜二は素直に、握っていた銀貨を渡しました。

銀貨を歯で噛むと、かちかちといい音がしましたので、
「どうやら、これは本当の銀貨だぞ。」
と秋房は思い、こども用のてぶくろを棚から出して渡してやりました。
「ありがとう。」
竜二は礼を言い、てぶくろ屋は
「ああ、気を付けて帰りなさい。」
と声をかけました。

後でそっと戸を開けた秋房は、雪の上に残った小さなきつねの足跡と、遠く飛び跳ねる尻尾を見ました。


てぶくろが買えた竜二は、嬉しくてなりません。
走って走って、兄さんきつねが待つ巣穴に飛び込みました。

魔魅流は心配で、いてもたってもいられませんでした。
あの子が捕まってないか、ひどい目にあわされてないかと気を揉んで、首を長くして竜二の帰りを待っていました。
そこに、元気に竜二が帰ってきたので、魔魅流は心の底から喜びました。

「兄さん、人間てそんなにこわくなかったよ。」
竜二がそんなことを言い出したので、魔魅流は驚きました。
「だってオレ、間違えてきつねの手を出しちゃったの。それでもちゃんと買えたよ。」
「ええ、そうなの。ええ、ええ。」
魔魅流は、ええ、と繰り返しました。

すっかり疲れた竜二は、ぐっすり寝入ってしまいました。
新しいてぶくろを、大事に抱えています。
「人間って、いいものかな。人間って、ほんとうにいいものかな。」
魔魅流は、ひとりで呟きました。




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