TexT;ぬらり(まみ竜)

□手と涙
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なあ、魔魅流。
お前は手袋をしろ、自分の式神で傷ついたりしないように。
お前の手は白くて大きくて、美しいから。


特注した黒い手袋が届いてからは、魔魅流の素手はほとんど人目に触れなくなった。
もちろん外すこともあったが、それは家の中、限られた状況にあって、だから外出時にはほぼ必ず嵌めていた。
そしてソレを指示したのは、竜二だった。

「…暑い」
手袋をした最初の夏、魔魅流はそう言って、嵌めないことがあった。
その直後、指先に火傷を負い、竜二に叱られ、それでまたずっと嵌めている。

竜二の言いなりと他人に見えても、魔魅流だって考えているのだ。


ねえ、竜二。
竜二の見せる涙はいつも偽りなの。
とてもきれいに流れるのに。

魔魅流が手袋を嵌めるのと前後して、竜二は自らの涙を偽りだ、と自嘲するようになった。
生来ところ構わず泣くような性格ではなかったが、偶に目撃されても、かえって開き直るある種のふてぶてしさを、この頃から竜二は好むようになった。


「だから、これも偽りだ、魔魅流」
お前の黒い手を押さえ、白い手の傷を治療する、この目に浮かぶ水は。
白い手に無惨に走る、赤い傷跡。

「嘘」
栗色の瞳が、濡れた黒い瞳をまっすぐに射ぬく。
「竜二、手袋外してるときは、偽りじゃない」
拙い言葉、真実を突いた眼差し。

「手袋してないときは、本当の涙」
重ねて言われ、竜二は息を飲む。
いつから気づいていたのか。


なあ、魔魅流。
お前は手袋をしろ、自分の式神で傷ついたりしないように。
お前の手が見えない間、オレの涙も隠すから。

偽りの手、偽りの涙。
白い手が頬の涙をそっと拭って、口づけが降るのを、竜二は黙って受けた。





あとがき
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