TexT;ぬらり(まみ竜)

□瞳はまるで
1ページ/3ページ

瞳はまるで碧い菫。
頬はまるで紅い薔薇。
手はまるで白百合の花。
どの花も競うて咲いた。
しかし――こころは腐っていた。
(ハイネ「瞳はまるで碧い菫」)


魔魅流とキスするのは、きらいじゃない、と竜二は思う。
白い顔が近づいて、壊れやすい硝子細工に触れるように、やさしくそっと落ちる口づけ。
自分が大事にされている、それを実感するのは悪い気がしなかった。

いつしか馴れた距離。
相手の息遣いさえ感じられる、生々しい間合いも、繰り返すうちに馴れてしまった。
けれどそこまで。
決して、それ以上踏み込むことは魔魅流はしなかったし、竜二から求めるのも気が引けた。

キスを求めることはある、二人きり、黙って見つめれば、魔魅流はたいていキスをくれる。
(自分はどんな表情をしているのかと竜二は思うが、敢えて知りたくもなかった)
けれどそこまで。
やさしい口づけ、静かな抱擁、きれいな顔。
魔魅流が竜二に見せるのは、そこまで。


竜二がキスをしたがるのは、魔魅流も気付いていた。
竜二に触れるのはだいすき、そこに否やはない。
伏せた睫毛が可愛くて、おとなしく待つのが愛しくて、大切にしたくなる。
そっと口づけて抱きしめれば、魔魅流は満足だった。竜二のキス、きもちいい、かわいい、それで満たされていた。


「なあ、魔魅流」
口づけの合間に竜二は言った。
「お前、すごく好きな奴とか、いんの」
「うん」
簡潔に魔魅流は応えた。
「…そうか」
それきり黙った竜二。

後になって、魔魅流は考えた。
もしかして、竜二もオレのこと、好きで、それでキスしたいのかな。
自分は竜二がだいすきで、それ以外なにもないけど、竜二はもしかして、オレが欲しくて、キスするのかな。

竜二はかわいそう、と魔魅流ははじめて思った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ