TexT;ぬらり(まみ竜)

□たとえばこんな一日
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良く晴れた日。
風に涼しさはかいま見えるものの、照りつける陽射しは夏の強さを持っている。
日陰でじっとしているなら涼しい、活動していれば暑い、という天気だった。

「暑いよなあ」
竜二は眩しい光に目を眇め、振り向いた。
後ろでは魔魅流が、いつもと変わらぬ涼しげな表情で立っている。
「乾いてるから」
「あー、湿度は低いだろうな」
湿っていなければ、暑さも凌ぎやすい、と魔魅流は言う。
逆に梅雨時や、低気圧が近いような日にぐったりするのだが。
それでも暑いのは暑いだろ、と竜二はひとりごち、行くぞ、と魔魅流を促した。

じりじりと熱がアスファルトから反射し、汗が滲み出る。
「何でこんな、暑い盛りに出なきゃならないんだか」
「ごめん」
「お前に言ってないさ」
気を紛らわす為の愚痴に、真っ向から謝られて、繕って、そうするともう言うことはなかった。
だらだらと歩いて行く、蝉と風鈴の音がどこかで鳴っている。
「帰り、どこかでジュース買うか」
「うん」

そのうち道は日陰に入り、途端に降り注ぐ熱が遮断された。
「陰に入ると、涼しくなるな」
思わず深い息をすると、魔魅流が横に並んだ。
「竜二の頭、熱くなってる」
「手を乗せるな!」
ぽんぽんと、あやすように叩かれ、反射的に竜二は咬みつく。
すれ違った若い女性が、驚いた顔で振り返るのを見て、声のトーンを落とした。
「…とりあえず、離れろ」
聞こえなかったのか、魔魅流は肩を並べたままだ。
手が下がったのを横目で確認して、竜二は黙認することにした。
いちいち言い争う気分ではないのだ、目的地ももう近い。

目当ての店に入ると、効き過ぎたような冷房が体を包む。
中で働いてたら冷え症になるんじゃないか、と思いつつ、外から入った身には正直ありがたい。
買い物を済ませ、荷物は魔魅流に持たせて、竜二は先ほどとは違う道に足を向けた。
「帰らないの?」
異を唱えながらも、ついてくる足取りに迷いはない。
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