TexT;ぬらり(まみ竜)

□黒ねこタンゴ
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うららかな小春日和。
久しぶりの陽気に誘われ、庭を歩いていた魔魅流は足をとめた。

縁側に覗いた足。
だらりと伸びた爪先を認めて、
「竜二」
口の中で呟くと、常の無表情にごく僅か喜色を浮かべ、近寄って、その足は再び止まる。

竜二は寝ていた。
昨夜は仕事で遅かった、ふと横になり寝入ってしまったような。
が、彼の足を止めたのはそれではない。

着物の裾からのぞく黒い紐のような物体…そして、黒髪の間からのぞく同色の…獣耳。
「……………………」
能面のごとき無表情で、魔魅流は沈黙した。


しばらくたったろうか。
獣耳がぴくと動き、黒い紐(しっぽだ、と魔魅流は思う)が揺れると、小さな声を漏らして目が開き、竜二が起き上がる。
「…よう、魔魅流か」
あくびついでに頭をがしがしと掻き…固まった。
「…ンだ、これ…」
獣耳に触れたのだ。

魔魅流に運ばせた大きな姿見を、竜二はまじまじと見つめた。
目を疑いたかった。
簡単には取れそうにない…触覚や痛覚もあることを、疑いたかった。

「何ンだよこりゃあ!」
「耳としっぽ」
「んなこた聞いてねェ」
余計なひと言を漏らす魔魅流を睨みつける。
「でもかわいい、竜二。ねこみたい」
さらに余計な言葉を垂れ流す口を、手加減なしでつねりあげる。
「…いひゃい、ひゅうじ」
「いいか、お前は俺の質問にだけ答えろ!」
こくこくと頷くのを確認してから手を離す。
(ほんとうなのに)
ひりつく口端を押さえ、胸の内で呟いた。

二人、膝を突き合わせて正座する。
かぽーん、とどこかで鹿おどしの音。真剣勝負の場のごとく、けれど一方の影には獣耳と…尻尾。
「まず聞く。お前の仕業か?」
首を横に振る。
「誰の仕業か、わかるか?」
横に振る。
「あー…その、生え出すところを、見たか?」
横に振る。
「気がついたら、生えてたか?」
頷く。
「…間違いないな?」
「まちがいない」
ああもう、と竜二は天を仰いだ。

予想はしていたが、魔魅流相手では埒があかない。
秋房あたりに相談するか、とは思うが、この姿を見られたくない。
自分でなんとかするしかなさそうだった。

考え込む竜二の頭で獣耳がぴくぴくと動き、尻尾が時折ぱたりと畳を打つ。
(かわいい)
無意識らしい仕草に、魔魅流は正座したまま見入っていた。
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