TexT;ぬらり(まみ竜)

□いつわりのよる
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「…何やってるか、わかってんのか?」
呆れた声音で問うと、魔魅流がすこし引いた。
修行中に、竜二の式神はさんざん味わっている。
「だって…、こうしたいって、思って…」
「こうしてどうすんだよ。お前、わかってないだろ? 俺は男だぞ」
いいからどけ、と押しのける…悔しいが、大きい体はびくともしない。

「…だって、竜二がすきなんだもん」
俯いた首筋が白くて、いつかの夜を思い出させる。
「すきなら、こういうのするって、聞いたよ」
「…誰に」
「雅次」
あのメガネ!と拳を握る。余計なこと吹き込みやがって。

「いいか、百歩譲って俺を好きだとしてもだ」
こんな前提も厭だが。
「お前は、面倒見てくれる奴がいいだけなんだよ。男同士は、こんなことしねェ。…わかったら、どけ」
ぽんぽん、と背を叩くと、思ったよりあっさりと離れた。

「…もう寝ろ、魔魅流」
ため息をついて布団を指す。
「疲れてんだよ、お前。明日はまた、修行の続きだからな。しっかり寝とけ」
無言で、感情の窺えない顔になった魔魅流が、おとなしく布団に潜る。

「竜二も、いっしょに寝て」
「…何でだよ」
「竜二といっしょがいい」
お前、自分の図体のデカさわかってんのか? 布団狭いだろうが。
いいかげん付き合うのも飽きて、寝なければ部屋に帰る、と通告しても、魔魅流はかたくなだった。
「竜二が来てくれるまで、寝ない」

そうして根負けするのは、いつも自分なのだ。
甘いのは自覚している。


「竜二がすきなんだもん」
「キスして、竜二…」
そうして、竜二は朝まで魔魅流の布団で過ごした。
朝、目が覚めるとまず魔魅流を殴ったのはご愛敬だ。


「…った」
「当ったり前だろ、好き勝手しやがって!」
一発じゃ気が済まないが、とりあえず時間がない。
「覚えとけ」
指を突きつけると、魔魅流が笑った。
それはいつか見た、あの笑顔で、竜二は息を止めた。





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