TexT;ぬらり(まみ竜)

□不運な彼
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その日、竜二は疲れていた。疲労困憊だった。
眠くてたまらなかったのだ。


最初は本家絡みの、退屈極まりないが顔を出さねばならない集まりだった。
居眠りするつもりで、夜遅くまで好きなだけ読書して行けば、なぜか意見を求められ。
欠伸を噛み殺しながら(退屈な)時間を過ごした。

戻って寝ようとすれば、出入りの呉服屋が、新しい反物を見てくれという。
付き合うとそれは口実で、呉服屋の親戚だか近所だかの娘が、魔魅流に惚れたという話だ。
取り次ぎはけんもほろろに断ったが、疲労感はいや増した。

とどめに、妖怪退治。
分家に回せばいいモノを、わざわざ本家指名で来たという。加えて遠方で、魔魅流一人は心もとない。
赴くと、現れる刻限があるとかで、無駄な時間を費やした。


つまり、竜二は最悪に不機嫌だった。

魔魅流との道中もほとんど無言で(気にする相手でないのがありがたい)、仕事も迅速に処理し(ほぼ八つ当たりのような早さ)、とにかく一目散に帰宅した。

金輪際呼び出すな、と固く言いつけて、汗と埃を流しに入浴する。
上がってみると夜着がない。下着は持ってきたが、忘れたようだ。
舌打ちして、着ていた単衣を纏い自室に戻る。裾が汚れて、嫌だったが。
布団に倒れこんで、熟睡するまで約2秒。


「…うじ…、竜二」
遠くで魔魅流が呼んでいる。
うるさくて眉を寄せれば、
「明かりついてる、単衣も脱がなきゃ…汚れてたよ」
「…るせぇ、放っとけ」
じゃなきゃ、着せろ…と、言ったかもしれない。
後で、竜二はそう回想した。言わなきゃよかったと。
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