TexT;ぬらり(まみ竜)

□ロマンス
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爪切りの練習とか言って、深爪されたら嫌だな。
見ていると、魔魅流は、持ち上げた手の甲に口づけた。
「…っ」
瞬間走った、悪寒にも似た感覚に、手を振り払った。

「何すんだ、魔魅流…」
「竜二、すき」
先ほどと同じ言葉。
まっすぐ視線を合わせて、栗色の瞳の奥、本気をちらつかせて。
「一緒にいたい。抱きしめたい。竜二じゃなきゃ、嫌だ」
子供のように、駄々をこねるように。
「竜二、…おねがい」

短くなった爪と白い手、それから腕が伸びて、ゆっくり、包みこまれた。
何から考えていいかわからなくて、混乱するオレの耳に、魔魅流の声だけが届く。
「すきなんだ、竜二」
「だから」
逃げないで。


ひどく真摯な響きの音に、目を閉じた。
この瞬間、魔魅流の声だけが、世界のすべてだった。






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