TexT;ぬらり(まみ竜)

□ノゾミカナエタマエ
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「他はって、お前が妖怪とか言うからだろうが。自分こそ、他にねえのかよ」
「……………」
「……………」
再度、しばらくの沈黙が落ちた。

この話も終わったか、と竜二が本を読み始めたころ。
「…燃えたら、いいと思う」
ぼそりと呟いた意味が判らなかった。
「何がだよ」
面倒で、本から目も上げずに問うた。
「みんな」
「みんなぁ?」

「ぜんぶ。…わるい妖怪も、やさしい人も、薔薇もエメラルドも」
「オレも?」
「竜二も」
「魔魅流も?」
「うん」
みんなみんな燃えて、小さな漂う灰になればいい。
言った魔魅流の瞳がうっとりと緩んで、竜二は束の間幻想を見る。


笑う天使の放つ矢は、5100度の炎。
人も虫も夢も月も靴も町も。
すべて燃えてしまえ。
みんな同じになれ、みじめな灰に還れ。
望み叶え給え。
朗々と歌う屍、あれは誰のものだったか。
天をも焦がす灼熱の劫火。


「…お前にしちゃ、夢のある話だな」
竜二がかるく小突くと、魔魅流は今醒めたような表情をする。
栗色の瞳の底には炎が燻っていて、何かを燃やしたいと舌なめずりしている。
ちろちろと見え隠れするそれを覗きこむと、魔魅流は噛みつくようなキスを仕掛けてきた。


竜二は魔魅流の炎に焼かれながら、せめて自分が抱え持つ水だけでも分けてやれたら、とぼんやり考えた。
そうしたら、ふたり一緒に燃えてしまえるのに。
小さな灰になって、漂っていられるのに。





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