TexT;ぬらり(まみ竜)

□ホットミルクと君と
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春の宵、日中は暖かくなったとはいえ、陽が落ちると急速に空気は冷え込む。
寒いと感じて、温かい飲み物でも欲しいと思った。

「魔魅流、茶ぁ取りに行かないか?」
自室で本を読んでいた竜二は、そこらにいる魔魅流に声をかけた。
湯を入れたポットごと持ってくるなら、二人で行ったほうが早い。
竜二は緑茶を好むから、急須と茶葉も必要だった。

「お茶」
胡乱な目つきで(いつものことだ)繰り返した魔魅流は、しばし考える素振りを見せる。
この、もったいぶる魔魅流が、実は竜二は嫌いなのだった。

思索に沈んでいるようで、本当は何も考えていない、ただ言葉が浮かぶのを待っているだけだと思っている。
実際こうやって待っても、はかばかしい答えが得られることは滅多にない。
ただ魔魅流のしたいことはできるだけさせてやろう、という、まるで育児方法のような対応を心掛けている(オレは心が広いよな、とそこで竜二はいつも感服する)ためだけに、竜二はじっと魔魅流を待った。

そうやって竜二が、自分を3回くらい誉め讃えた後、魔魅流はようやく呟いた。
「ホットミルク」
「はあ?」
胡乱な声が出たのは竜二だった。

「ホットミルクがいい、レンジじゃなくて鍋で温めたの」
「自分でやれ」
これから台所に立って牛乳を温めるなど、ごめんこうむる。
(しかもコイツのためにだ)

煩いことを言い出した魔魅流は放って、自分で済ませようと竜二は腰を上げる。
往復することになろうと、さっさと揃えて茶を飲んでしまいたかった。
もちろんホットミルクは黙殺して。
それでも、とりあえず、湯呑みは二人分運んでみたりするのが優しさというものだ。
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