TexT;ぬらり(まみ竜)
□ホットミルクと君と
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最後にポットを下げて部屋に戻ってくると、魔魅流が転がっていた。
ホットミルクの要望が通らずに拗ねているのか、と少しばかり苦々しく思いながら、無視して茶を淹れる。
飲みたければ、自分で作ればいいのだ。
そうしたら一緒に並んで飲むくらい、してやるのに。
慣れた動作で緑茶を湯呑みに注ぐと、白い湯気と共にふわりと香りが立ち上った。
誰も見ていない(魔魅流は壁を向いている)のに渋面を作り、竜二は二つめの湯呑みにも緑茶を注ぐ。
「魔魅流、茶」
簡潔に言い置いて、竜二は自分の湯呑みを手に取る。
温かい液体が喉を通り、体が冷えていたのを今さらのように自覚した。
はあ、と息が漏れて、肩の力を意識的に抜く。
「…冷めるぞ」
未だ壁に向かって転がる魔魅流に声をかけると、ああ、ともうう、ともつかない声が聞こえた。
「寝てんのか?」
すこし気になって覗きこむと、魔魅流の頬が赤い。
額に手を置くと、熱かった。
「…お前、熱あんじゃねえか」
ばたばたと布団を敷き、部屋を改めて暖める間、魔魅流はやっぱり転がっていた。
とりあえず水分だ、飲め、と渡された湯呑みに魔魅流は幾分か不満そうな顔をした。
「ホットミルク」
「ああもう後で作ってやるから!ソレ飲んでおとなしく寝てろ!」
口走ってから、満足そうな表情になった魔魅流に、甘やかしすぎたか、と一瞬我に帰る。
「お茶、おいしい」
緑茶を口に含んで、ゆっくりと飲み下しながら魔魅流が言う。
「…あったりまえだろ、オレが淹れたんだ」
「あ、ミルクは甘いのがいい」
人の話を聞いてない魔魅流に、こめかみが引きつるが、病人相手に大人げない、と竜二はなんとかこらえた。
寝入った魔魅流が目覚めたら、ホットミルクを作ってやろう。
蜂蜜を死ぬほど入れて、むちゃくちゃ甘ったるいのを飲ませよう、と竜二は心に誓った。
→あとがき