TexT;ぬらり(まみ竜)

□屋根よりたかい
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五月晴れの青い空。
口を開けた鯉たちが、誇らしげに舞い踊る。

おやつに出された柏餅を見て、ようやく竜二は今日が何の日だったか思い出した。
「…ああ、節句か」
呟いた一言に、魔魅流がこちらを見る。

近所の老舗和菓子屋の、本日限定で販売されるそれは、竜二の好物で。
家人の誰かが買って来たのか、出入りする者の差し入れかは知らないが、ありがたくいただくことにした。

深い翠いろの葉を剥くと、きらきらしいまでに白く光る肌が現れる。
一口かじるともっちりとした歯応えの向こうに控えめに主張する甘味があって、毎年変わらない味に竜二はひそやかに安堵する。
添えられた緑茶を口に含み、知らず肩の力が抜けた。

ふと横を見ると、魔魅流の皿は既に空だった。
むぐむぐと動く頬の膨らみから見て、一口で平らげてしまったらしい。
「………」
情緒を解さない奴、と湯呑みを持ったまま白けた目で眺めていると、これまたあっさりと飲みこんだ魔魅流が竜二の皿を見る。

「竜二、ちょうだい」
一瞬のことだった。

声を同時に伸ばされた手が、竜二の柏餅(一口しか食べてないのに!)をむんずと掴み、
哀れ(竜二の)柏餅は、魔魅流の口に消えた。


「てっ…めえ、魔魅流!!」
声を荒げて片膝立ちになった竜二を不思議そうに見上げながら、むぐむぐと動く頬が憎い。
容赦なくつねりあげると、顔を歪めた魔魅流が(竜二の!)柏餅を飲み下した。

「…いひゃい」
「当たり前だ馬鹿野郎!勝手に人のを取んな!」
大人げない、と自分でもわかるほど腹が立ち、しかも相手は魔魅流なものだから、竜二は存分に怒鳴りちらした。


ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が漏れ聞こえたのだろう、しばらく竜二と魔魅流にはおやつが二つ出るようになった。

その後魔魅流は一人で柏餅を買いに行かされ、当然食べることは許されなかった。





あとがき
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