短編とか。

□狐の入れ知恵
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とある黒い洋館での出来事。
黒いセーラー服に身を包んだ少女は、己の家の地下にある薄暗い書庫で本を読んでいた。
その少女の口元には笑みが浮かんでいる。妖艶で無邪気な、何とも言えぬ美しい笑み。
妖しい笑みの理由は書庫にだんだん近付いてくる足音だ。その足音の主は小走りしているようで、ぱたぱたと地下にまで響いてくる。
そして、


「は・ご・ろ・も・ぎ・つ・ね、さまぁ〜〜!!」


バン、と勢い良くドアが開いて、そのドアから一人の少女が飛び出してきた。…いや、飛び込んできた。
黒い少女はというと、本から目を離さぬまま、慣れた手つきでその少女を受け止めた。
片手に本を持っているというのに器用なものだ。
少女は黒い少女の腹に抱きついたまま、顔をあげる。


「ねぇ聞いてよっ!あのねあのねー!!」

「名前よ、“また”茨木童子の事かえ?」

「そうなの!!茨木ったらね!!」


黒い少女、羽衣狐が“また”、と強調したのに気付かぬまま、名前は愚痴を一気に吐き出す。


「茨木がまたあたしの事バカにしたの!」

「ほう」

「しょうけらに聖書読んでもらってたらねー、カス虫なんかと一緒にいるからお前はー…とかグチグチ言ってくるの!」

「ほう、それで?」

「しょうけらと何か言い争いになってね、それから茨木がしょうけらを殴り飛ばしたの。しょうけらが気絶してそれでお開き。
しかも茨木あたしを睨んできたのよ。茨木ってば、あたしの事キライなのかなー」

「…………ふふっ」

「ちょっと狐様ぁ!何で笑うのー」


本で口元を覆って羽衣狐は笑う。
無論名前の鈍感っぷりに半ば呆れているのだ。
まぁそれよりも面白いのは茨木童子の態度だが。


「のう、名前」

「ん?なぁに狐様」


名を呼べば、無邪気な顔がこちらを向く。
まぁ、“あの”茨木が落ちるのも分からない事は無い。それ程、見た目と精神年齢だけは若いこの少女は人を、妖すらもを惹きつける。


「茨木童子がお前をどう思っているか知りたいか?」

「知りたい!」


羽衣狐の言葉に即答する名前。


「ならば良い方法があるぞ。とっておきの、な」

「とっておき?なになに教えてー」


羽衣狐は自然とこぼれる笑みをこらえながら、口を開く。


「ふふ、それはな……」



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