短編とか。

□刹那、
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手に握り締めた二振りの白刃を、振るう、振るう。
その度々に舞踊る赤色。香る鉄臭さ。響く異形の断末魔。すべて闇夜に紛れて消える。
あぁ。堪らない。私は舞を踊るが如く、刃を振り被り続ける。ただ、ひたすらに。まるでそれしか出来ないかのように。

そして…どの位、経ったのか。
果たして一瞬だったか永かったのか。私には分からなかった。
ただ、纏わりつく香りと滴り落ちる雫に満足感を感じながら、私は後ろを振り仰いだ。

「そっちも、終わったみたいだね」

「……ええ」

「数ばっかり多くて手応えなかったー」

べとべとする前髪をかき上げてば、赤い雫が飛んだ。
それを見た彼は、笑顔のまま僅かに眉を寄せた。果たしてそれにどんな意味が込められているのか。私には分かりかねない。

「名前さま。お怪我は、」

「無いよ。君は?」

「いえ、御座いません」

「……そ、」

私と同じく血まみれな彼を見やる。
月明かりに輝く銀髪の隙間から覗く、狐耳。九つの豊かな尾。
こう見たら、彼も私達の周りに広がる屍と何ら変わりない、異形だ。
なのにどうして彼に私の“衝動”は効かないのか。全く謎だ。いや、効いたら困るけれども。
そもそも私の“衝動”はビョーキだ。人の枠を超えてる。狂人、それが私にピッタリな言葉。

(…殺害衝動、とでも云うのかな)

この衝動は殺人じゃないのがせめてもの救いか。だって対象が人じゃないから。
いや、それがたまたま異形達であっただけで、本当は何だっていいのかもしれない。
血が乾いてカピカピする手を見つめる。グーとパーを交互に繰り出してみた。こびりついた血のせいで若干動きにくい。

「………私って、花火みたいだなぁ」

「……と、言いますと」

「うーん。強いて言うなら爆弾かな。導火線に火花みたいな、ほんとにちっちゃい火が点いただけで、ドーンと爆発しちゃうの」

「………失礼ながら、名前さまのお話は幾らか抽象的すぎて僕ごときには理解できないようです。お手数をお掛けしますが、ご説明を、」

「あーうん。私が悪かった。その、つまりね」

私って、ほら、“殺す”って言う行為に異常に依存してるじゃない?普段はそうでもないけど、妖怪が襲って来たりした時。
私はさ、戦闘狂でしょう。こうやって……殺すのが楽しくて仕方ない。でもね、ちょっと怖いんだよ。
私はきっと、“命を奪う”んなら何を殺したって満足すると思う。つまりね、私はいつか人を襲い始めちゃうんじゃないかって。
………それが、怖いの。

月に血濡れた手を伸ばす。
ううん、私はもしかしたら人を殺していたかもしれないね。“今”の私がしてないだけで。そう言って笑えば乾いた声しか漏れなかった。なんか無性に虚しさを感じた。

「誰かが止めてくれたらいいんだけどなぁ」

君に頼んでいい?と言えば、彼は笑顔を崩さぬまま、いいですよ、と答えた。内容に反して、あまりにあっけらかんとした返事。

「ちゃんと、息の根を止めるんだよ?」

「はい」

「何度だって、殺してくれるの?」

「…はい」

彼の笑顔が少し歪んだ。悲しい色が見受けられる。
ああ、悲しんでくれるのか。私が衝動を抑え切れなくなって、約束通り彼が私を殺したなら。

「……ふふ」

月にかざしていた手を彼に伸ばす。そのまま腰に抱きつけば、優しく支えてくれた。

「約束。何度でも私を殺してね」

「名前さまは殺されぬよう、頑張って抑えて下さいね」

「SSの癖に生意気ー」

彼が私の髪を撫でた。
血のこびりついたそれは、彼の指を通そうとはしなかった。




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