短編とか。

□あったかい
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連勝の少しぬくもりの戻った大きな手を引いて帰路を辿り、マンションに着けばすぐに私の部屋に引っ込んだ。
ドアを閉めてすぐ互いの顔を見れば二人共鼻が真っ赤で林檎みたいになっていて、声を上げて笑った。
冷えた革張りのソファーに連勝を座らせ、エアコンとストーブのスイッチを入れる。暖房を総動員しようと思う程度に部屋は冷えていた。


「…なんか、中も外もあんまり変わんないね」

「だな」


その証拠に二人共依然コートを脱がぬままだ。
居間と隣接するキッチンのカウンター越しに見た連勝は猫みたいに縮こまっていた。大柄なのに猫とは変かもしれないけれど、そんな例えがぴったりだ。
冷蔵庫から取り出した牛乳を鍋に注ぎ、コンロに火を点ける。沸騰するまでの間に二つのマグカップを用意し、それにココアの粉を入れる。


「……寒ィ」

「もーちょっとで出来るから待ってね」


再びカウンターから連勝を見れば、ストーブの前を陣取っていた。まぁ、普通そうするよね。
という私も鍋の上のあったかい空気に手をかざしているのだけれど。
沸騰し始めた牛乳をマグカップに注ぎスプーンで混ぜれば、完成。約束通りのとびきり甘くて熱いココアだ。


「出来たよ」


ココアを連勝に渡せば「サンキュ」と言ってふわりと笑った。私も彼の隣へと腰を下ろす。
甘い香りと仄かな熱に包まれた空間。


「…まだ、ちょっと寒いね」


と漏らしてみるが、部屋はコートを脱げる程度にはあったかくなっていた。
連勝は一度動きを止め、マグカップを床にコトリと置いた。なんだろ、と思いながら見ていると、彼の両手が広げられた。


「おいで」


…ああ、そういうこと。
私は素直に連勝の膝に乗る。後ろから大きな腕で包まれて、さっきよりもあったかくなった。
彼の手のひらを頬に当てると、ほんのりとぬくもりを感じた。
人肌の温度が、心地よい。


「連勝の手、あったかい」

「さっきお前があっためてくれたからな」

「…あったかい。あったかいね」


何度も繰り返し、体を擦り寄せれば、今日はやけに素直だなぁと笑い声が返って来た。




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