短編とか。
□愚直
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木漏れ日の落ちる階段の先にある神社。幾重にも張られた罠を潜り抜けないとたどり着けぬ、始まりの秘境であり終焉の地獄。
私からしてみれば後者が強い。だってここは私の始まった地であり終わった地でもある。
椿の大木の、立派な幹に触れる。
伝わってくる感情。
私はここで生まれ落ち、ここで死ぬ定め。
神でありながら生け贄。歓喜と慟哭の狭間にて散る哀れな椿。
それで良い。私はこの椿の花片なのだから。
森のざわめきの合間。すこうし遠くから、枯れ葉を踏む音がした。
振り向くことはしない。だってもうその音の主が誰か分かっている。まったく、何時ものことながら面倒な御客様。
「名前ちゃんってさ、いつもその椿の世話してるよね」
「まぁた、夏目残夏か」
「そ。君がだーいすきな夏目残夏でーす」
「大嫌いだ」
「あはは、君って素直だよねえ」
「誉めて頂き光栄です…っと。要件はそれだけか?だったら今すぐ森から出てけ」
「断ろうかな」
背中を向けたまま会話をするが、相手の男もあまりそれを気にしていないらしい。
くつくつ笑ってまた一歩一歩こちらへ距離を縮める。枯れ葉を踏む音が、また。
「いい加減、出たいとは思わない?この箱庭から」
「下界のほうがよっぽど箱庭と呼ぶに相応しいだろう。して、何故ここまでしてお前は私を救おうとする?」
「愛しているからだよ」
「嘘でもそんな愛は、要らん」
溜め息を幹に吹き付ける。そうだ、と古椿も私に同調する。
例えの話だが、もしも私に情を抱いていたとしても、あのおびただしい数の罠、人間、妖怪、そして先祖返りすら跳ね返し拒むそれを壊しくぐるまでして訪ねるのならば、それは最早ただの馬鹿、阿呆だ。
「阿呆なんて酷いな」
「そう形容するのが一番だ。直ぐに散るこの私にそんな誘いを持ちかけるなど」
「直ぐに散る者同士なんて、お似合いじゃない」
「なんだ、お前ももう近いのか」
ふと振り仰いでみれば、少しだけ悲しみを滲ませた男が見えた。
悲しいのか、と漏らせば悲しいさ、とけろりとした声で返された。
数ある内のひとつの椿の花に、手を向ける。
刹那赤かったそれは浅黒く色を変え、やがて手のひらにぽとりと落ちた。
命ってあっけない。私によって奪われた命を優しく握り締める。
「これをやる」
再び男を振り返り、手の内の花を差し出す。
「入院患者に椿、特に鉢植えを渡せば遠まわしに“死ね”やら“治るな”と言ったようなものだと聞いたのを思い出してな。生憎お前は入院してないが」
「死んで欲しいんだ?」
嫌な顔ひとつせず受け取り、男は微笑んだ。枯れ腐った花を、包んだ。
私は意味深な笑みを返す。ああ、そうだよ。お前の思っているとおりだ。
「お前なんか、死んでしまえばいい」
(悲しいほど愚直な“ ”)