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□睡眠不足
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部屋の中、鼓動は二つ。

カタカタ、キーボードに打ち込む音。


くるくる回転椅子で遊ぶ太一。
暇を持て余していた。


「こうしろーう」

椅子から立ち上がり、
鼻から抜けるような声で
光子郎の名を呼び傍へと寄った。


「…はい」


素っ気ない返事をされる。

今はパソコンに集中しているから
仕方のない事なのだけど…。



いつもなら、

太一が光子郎の背中に抱き着いて。


だが今日は違った。



抱き着いたら、また嫌がられんだろうな。
なんて思ってしまったからだ。


少し、ほんの少しだけ距離を置いて、
光子郎と背中合わせでその場に座る。

手を少し伸ばせば、
抱きしめられるくらい。


しばらく、
キーボードに打ち込む音を聞いていた。


そうしてたら、カタカタという音が
ゆっくりと、そして、
とうとう止まってしまった。



終わったのかな?



振り返ろうとした瞬間、
背中に、ふわりと温もりを感じた。


細い腕が手前に回ってきて、
優しく抱きしめられた。



「…こうし、ろ?」


少し首を捻り、
光子郎の方へと目を向けると
自分の頬に温かく柔らかい感触がした。

頬にキスされたのだと解り、その後すぐに
唇が離れ光子郎の顔が見えた。

頬を赤らめ、
上目遣い気味で太一を見ていた。


だけど、
どこか疲れたような目をしていて
目蓋が重そうに思えた。



「すみません、太一さん…」



光子郎は一言謝り、
太一の背中に頭を沈めた。


「…、光子郎?」


太一は声を掛けるが、
返事はなく、静かに寝息を立てている
光子郎に気が付く。



…寝ちまった、疲れが溜まっていたのか。



光子郎からは滅多に抱き着いてなんか
来ないのに、それだけでも嬉しく思った。


この安心しきった寝顔を見れば、
此方まで心が緩む。


部屋の中。

鼓動は二つ重なり、
愛する人の温もりを
ひしひしと感じていた。



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