読物

□恋という名のプログラム
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「カイト、カイトー、まだおきてる?」

僕の名前を大声で呼びながら、部屋に入ってくる僕のマスター。
僕はこの家に来たときから、マスターに振り回されてる。
でも、決して嫌いなわけじゃない。
優しいし、可愛いし、アイスもくれる。大好きなマスター。

「起きてるけど…何か用?」

「えへへっ、カイトと話したくなったんだ」

「僕と?」

「そう、カイトと話すの、好きなの」

そういってマスターは口元を緩めて微笑む。
どうしよう、可愛い。

「…僕も、マスターと話すの、好きだよ」

「ホント?だったら嬉しいな」

僕の座っていたベッドに、マスターも座り、僕にもたれかかって来た。
頬を肩に摺り寄せて、心地よさそうに眼を閉じる。
そんな仕草一つ一つが、愛しくてたまらない。

「……でも、だめなんだろうな」

「ん?」

「…マスターは、好きな人とか、いるの?」

「え………」

こっちを見上げて、顔をほのかに染める。
この反応は、いるって事だろうな。

「いる、の?」

「い、いやその…ね?いるっていうか、いないっていうか…」

顔を真っ赤にして、その誰かのことを話すマスターを見てるだけで、
何か、胸の辺りがジリジリする。
焼けるように、熱くて。それでいて、ぎゅう、と締め付けられるような。
何だろう、コレ?

「………カイト?…ふわあっ!」

自分でも分からない、何故僕は今、こんな行動をしている?
何故、マスターを押し倒している?何故、何故、
マスターに、キスしている?

「んん……ん、んぅ……」

初めての、不器用なキス。
マスターが苦しんでるのも、別にいいと思える。
これで、僕の証が付くなら、僕のこと、体に刻み込んでくれたら。それだけで。

「っはあ…は……っ」

「ます、たー………」

気が付くと、僕は、マスターの体を強く抱きしめていた。
不器用でごめん、優しく出来なくてごめん、好きになって、ごめん。
全部全部、言いたかった。声にならなかった。
ねぇ、マスター。僕に酷いこと、いっぱい言って。
自信は無いけど、がんばって嫌いになるから。
大好きな、あなたを。

「……カイト?」

「っ…何、コレ……」

視界がぼやけては戻り、ぼやけては戻りを繰り返す。
その度に、マスターの顔に水の垂れたあとが残る。
何でだろう?

「カイト、泣いてるの?」

「泣いてなんか、無いよ。悲しいことなんか、全然……」

ある。たくさん、数え切れないほど、いっぱいあるんだよマスター。
いつも僕の事分かってくれない。なのに、
大好きで、大好きで大好きで、仕方ないんだよ。
だから、もっと僕の名前、呼んで。僕の頭、撫でて。僕の歌、聴いてよ。
曲も、いっぱい作って。ちゃんと、文句言わずに歌うから。
あなたの特別に、僕はなりたいよ。

「え………」

その時、マスターが僕のことをぎゅっと抱きしめた。
ほら、マスターは、あったかいんだよね。

「ねぇカイト。人間はね、ちゃんと、思ってること言ってくれないと、伝わらないの」

「ま、マスター?」

顔が熱くなる。心音が煩い。
マスターにキスしてたときは、なんともなかったのに、何で?

「カイト、言いたいことがあるなら、全部言ってよ。何がしたいのか、全然分からないよ」

「いいたい、こと?」

「機械でも、カイトには心があるんでしょ?だったら、気持ち溜め込んでたら、調子悪くなっちゃう」

「っ、でも……」

マスター、優しい言葉をありがとう。
でもねマスター、その言葉は、今の僕には、残酷すぎるんだよ。
今、好きだなんていっても、マスターは好きな人いるんだもん。

「カイト、なんでもいい。言って」

「っ僕…ぼ、くっ……」

「ん?」

「マスターの事、大好き」

「うん、私もカイトの事、大好きだよ」

そうじゃない、そうじゃないよマスター。
僕は、本気で、マスターが。

「違う!」

「え……」

「僕はマスターがホントに大好き!他の人の話してると、気分が悪くなるし、マスターといるとドキドキする!なのにっ…」

「カイト…」

「マスターは好きな人がいるって………」

「うん、いるよ。何より大切な、大好きな人」

「っ………」

「告白、いつしようかなってずっと思ってた。でも、怖かった。断られるのが」

「……マスターは可愛いから、大丈夫だと思うよ」

「…本当に?」

「うん、断る人なんかいないよ」

自分の中で渦巻く感情を、必死に抑える。
大好きなマスターの、大好きな人。マスターが幸せなら、僕は我慢するよ。

「そっか、じゃあ…」

そういうとマスターは自分の体を起こして、僕の顔をじっと見る。

「カイト、大好き。世界で一番。私だけの、カイトでいてね」

僕は、言葉が出なかった。
マスターは今、なんていった?
僕のこと、すき、って、言ったの?
どうして?

「あたしの好きな人、カイトだよ」

「なっ……」

「だからさっきカイトに告白されたとき、びっくりしちゃった」

「ますたぁ……」

涙が、止まらない。
このプログラムは、マスターが新しく作ってくれた。
恋という名のプログラム。
でも、まだまだ未熟な機能だから。
マスターともっとレッスンして、最高の状態にするんだ。
大好きなあなたのくれた、大切なプログラム。



             fin.

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