読物

□甘い
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少しだけ寒い、今日。
外は銀世界で、気が付けば足は外へと向かっていた。
防寒具をつけて、足跡を刻みながら歩く。
なんだか、眩しい。

「………すごい」

紙とペンをポケットから出して、ありのままを書き写してゆく。
真っ白な雪の薫りからは、言葉がどんどん浮かんでくる。
この公園の隅にあるベンチ。いつも詞を考えているこのベンチも真っ白に染まって、少し、埋もれてしまっている。

「やば、手……」

手がかじかんで、動かしにくい。
書いた字も、超絶汚い。
かといって手袋をすればペンを落としてしまう。
手を止めて悩んでいると、後ろから、足音がした。

「…?」

気付いた頃にはもう、後ろから抱きしめられていた。
風に揺れた、赤いマフラーが目に留まった。

「まーすたっ、何してんだ?…こんな寒い中」

「アカイト…詞、作ってたんだよ。ちゃんとアカイトに歌ってもらうからね!」

「そっか、つーかマスター、手、冷たすぎ」

「え、わ…」

ペンを握っていた手を手の甲からそっと握られて、思わず声を上げてしまった。

「あんまり体冷やすなよ。しもやけになるぞ?」

「あー、それは困るね。痛いのは嫌だし」

「……だったら、俺があっためてやるよ」

「え、ちょっ!」

突然、ベンチに押し倒される。
抵抗しようとして、暴れてみたのはいいが、背中に雪が入ってきた。

「〜〜〜〜っ!」

「バカ、冷てぇだろ?暴れんなって」

「バカはお前だっ!人が来たら、どう、すっ……!」

「大丈夫だ。こんな朝早く公園に来る奴なんか、マスターくらいだろ?」

「ん……ゃ…」

低い声で囁きながら、耳朶を甘噛みされる。

「朝起きたら横にマスターがいなかったから、ひょっとしたらと思って来た」

「え……」

服の中に、少し冷たい手を入れながら、アカイトが言った。
甘く潤んだ瞳で見つめられると、いつも何も言い返せなくなる。
でも、今回は例外だ。

「ダメ!この間雨に打たれて風邪引いたんだから!また引いたらどうすんの!?」

「その時は俺が愛を込めて看病を…」

「寝るまでいてやるとか言って、手ぇ出してきたのは誰だったかな?」

「あれは別にいいだろ?マスターだってあんなに気持ちよさそうに…」

「黙れ変態!もはや死ね!」

「もはやって何だよ!」

「とにかく!絶対こんなところじゃダメ!」

「………家ならいいのか?」

「…は?」

「だから、家でならシてもいいのか?って」

「………時と場合によるけど」

ごまかそうとしてそう言い返すと、アカイトはぱあっと嬉しそうな顔になった。
どうしよう、何か可愛いぞ…。

「じゃあ家帰ってから、ちゃんとシようぜ?今日は誰もいないみたいだし」

「え、お母さんいるはずじゃ…」

「さっき、友達と出かけるって言ってた。夕方までには帰るだってさ」

「そ、そう……」

「って事は……イイよな?マスター」

「ぅ……」

体を離して、乱れた私の服を調えるアカイト。
こういうところは、律儀なくせに。

「早く、家に戻ろう。寒くて仕方ないよ」

「背中、大丈夫か?」

「大丈夫だけど、冷たい……あ、飲み物、買おうか」

そういって私は自販機に向かう。
アカイトもその後ろについていた。

「私はココアがいいー。アカイトは?」

「……甘い奴しかねぇから、いい」

「あはは、ホントだー」

ちょっと不機嫌そうなアカイトを見つめながら、微笑む。
するとソレに気付いたアカイトは、コッチを見て、笑ってくれた。

「何か、アレだな…」

「ん?」

「本当に、恋人みたいだなって」

アカイトが、顔を赤くして、目を細めて、優しい顔で囁くから。
何も言い返せずに、アカイトに見とれてしまった。
するとアカイトは笑顔のままこっちを向いて、優しい声音で言った。

「…なぁマスター、ココア、少し頂戴」

「いいけど…飲めるの?」

「…飲む」

まだ開けてない缶を開けて、アカイトはココアを啜った。

「甘っ!ヤバイだろこれっ!」

「だ、だから言ったじゃん!」

「うあーっ、マジ無理ぃ…」

「可愛いこと言ってないで、無理しなくていいのに」

「別に…お前の……き…だから……」

アカイトがぼそっと呟いた。
私の耳には、届かなかったけど。

“お前の好きなものだから”

アカイトはそういっていたようだ。
そのあとも、くだらない話をしながら足を進めていく。
その時、

「っ、え、きゃあっ!?」

突然、足場がなくなったかのように、訳が分からなくなった。
多分、氷で滑った。

「マスター!?」

ぐっとアカイトに腕を掴まれてやっと我に返る。
どうやら、転んではいないみたいだ。
アカイトの、おかげで。

「お前な…ちゃんと下見て歩けよ」

「わ、分かってるよ…ってあぁ!!」

「ん?…っておい!」

コケた拍子に、ココアが服に零れてしまっている。
しかも、いっぱい。

「やばい冷える!アカイト、早く帰ろ!」

「ほんっとバカだよな…」

家に着くと、本当に誰もいなくて。
私はベタベタする上着を脱いで、洗濯機に入れる。

「うぁ、中まで入ってる……」

襟から中に入ってしまい、服の中から甘いにおいがする。
仕方なく、中の服も脱いで、下半身はスウェット、上半身は下着だけになる。

「マスター、着替え持ってきたー…」

「ちょっ!何で入って来てんの!?死ね!最悪!変態!いい加減に死ね!」

「だからその死ねってやめろ!最後のもれなく意味不明だし!」

「いいから出てってぇ!!」

「ん……やだ」

「はぁ!?何、離し…やっ!」

ウエストの辺りをまさぐられて、甲高い声を上げてしまう。
アカイトは、まだココアの糖分でベタベタする胸に下を這わせた。

「ん、ぁ……」

「…うん、マスターなら、甘くてもいくらでもいけるかも」

「ば、バカじゃないの!?」

結局そのあと、脱衣所で最後までされた。
正直、外よりはマシだが、脱衣所は、寒いし、床も冷たくて。
その上一緒にお風呂まで入らされた。(この話はまた今度…いやいやしなくていいっ!)
どこまで、あの赤色の男は、貪欲なのだろうか。

「ちょっ、メモなくしたー!!」

「あぁ、あの時落としたんじゃねぇ?」

「落としたんじゃねぇじゃない!このバァカイト!」

「バァカイト!?」

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