鋼の錬金術師

『負』の裏にある、或る『正』(後編)
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 それから、僅かではあるけど穏やかな日々が続いていた…。

傷の男(スカー)の傷はもう癒えて、……きっとまた、『国家錬金術師』を殺しに行くんだろう…。

そしてこの人は、全ての『国家錬金術師』を殺すまで…止まらない…。

そう思ったら、心が痛くなった。

全ての『国家錬金術師』を殺した後…、彼は一体どうするんだろう…。

そう思って、ハッと気付いた。

―――ここ数日、私は…傷の男(スカー)の事ばかり気にしてる…?



「…どうして…?」



父を殺したのに…、彼がリックに助けられてこの貧民街(スラム)に来た当初は、あんなに憎んでいたのに…。

今はこんなに、彼の事が気になる……。

川辺で一人佇んでいる彼を、こうしてずっと見ているのは……どうして…。



「ユキ姉ちゃん!」



突然呼ばれて振り返ったら、リックが居た。

リックはニカッと笑いながら、こう言った。



「ユキ姉ちゃん、なんか雰囲気変わったね」

「え?」

貧民街(スラム)に来た時は……特におっちゃんを助けてから、なんか凄くツンツンしてたのに…最近変わった!」

「…………」

「……俺、今のユキ姉ちゃん、大好きだよ!」

「!」

「早く、おっちゃんとくっつけよ〜!」

「んなっ!?…だ、だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!!リック!」



リックの台詞に真っ赤になりながら、リックを追い掛ける。

でもリックはすばしっこくて、捕まってくれない。

早く誤解を解かないと……、リックも含めた、貧民街(スラム)の人達全員の…。



 ……この、今の自分の気持ちが何なのか、判るようで判らないけど…。

まだ…この気持ちをはっきりさせない方が、良い気がする…。

彼の…傷の男(スカー)への憎しみが薄らいでいっているのが少し複雑だけど…、それが良い事なのか悪い事なのかなんて、よく判らないけど……、今はまだ…その『答え』は、出さないでおこう…。

自分の『彼』に対するこの気持ちが、はっきりするまでは――――――……。

それで、良い…よね―――…?

父さん――――――…。


―END―

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