鋼の錬金術師
□『負』の裏にある、或る『正』(後編)
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それから、僅かではあるけど穏やかな日々が続いていた…。
傷の男の傷はもう癒えて、……きっとまた、『国家錬金術師』を殺しに行くんだろう…。
そしてこの人は、全ての『国家錬金術師』を殺すまで…止まらない…。
そう思ったら、心が痛くなった。
全ての『国家錬金術師』を殺した後…、彼は一体どうするんだろう…。
そう思って、ハッと気付いた。
―――ここ数日、私は…傷の男の事ばかり気にしてる…?
「…どうして…?」
父を殺したのに…、彼がリックに助けられてこの貧民街に来た当初は、あんなに憎んでいたのに…。
今はこんなに、彼の事が気になる……。
川辺で一人佇んでいる彼を、こうしてずっと見ているのは……どうして…。
「ユキ姉ちゃん!」
突然呼ばれて振り返ったら、リックが居た。
リックはニカッと笑いながら、こう言った。
「ユキ姉ちゃん、なんか雰囲気変わったね」
「え?」
「貧民街に来た時は……特におっちゃんを助けてから、なんか凄くツンツンしてたのに…最近変わった!」
「…………」
「……俺、今のユキ姉ちゃん、大好きだよ!」
「!」
「早く、おっちゃんとくっつけよ〜!」
「んなっ!?…だ、だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!!リック!」
リックの台詞に真っ赤になりながら、リックを追い掛ける。
でもリックはすばしっこくて、捕まってくれない。
早く誤解を解かないと……、リックも含めた、貧民街の人達全員の…。
……この、今の自分の気持ちが何なのか、判るようで判らないけど…。
まだ…この気持ちをはっきりさせない方が、良い気がする…。
彼の…傷の男への憎しみが薄らいでいっているのが少し複雑だけど…、それが良い事なのか悪い事なのかなんて、よく判らないけど……、今はまだ…その『答え』は、出さないでおこう…。
自分の『彼』に対するこの気持ちが、はっきりするまでは――――――……。
それで、良い…よね―――…?
父さん――――――…。
―END―
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