長編・第一部

第四章 誘拐
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謎の抗体『X‐naught』を奪り還えせ!

第四章   誘拐



 GBは、依頼の来たその日から情報収集等を開始した。

銀次は外で、蛮は『HONK TONK』の奥の部屋で……。

そして桜羅は暫く『HONKY TONK』で波児や夏実と雑談。

そろそろ陽も傾き始め、桜羅は帰ろうと席を立つと、奥の部屋から出てきた蛮に呼び止められた。



「ちょっと待て。桜羅、話がある…」

「あ、はい。何ですか?」

「送りながら話す…」

「はい。それじゃ、マスター、夏実ちゃん。さようなら。銀次さんにも、お伝え下さい」



挨拶をする桜羅の手を引き、蛮は『HONKY TONK』から出た。

そしてそのまま暫くの時間、歩き続けた。



「……?」



外は夕暮れ。

自分達の影が細く長く追いかけてくる。

蛮を見上げるが、その表情は至って普通。

怒ってはいない…、が、かと言って笑ってもいなかった。

無表情のまま、桜羅は蛮に連れられる。

……だが、いい加減心配になってきたのか、桜羅は思い切って訊ねてみた。



「あの、お話…って、何でしょうか…?」

「………ああ…」



蛮は桜羅に向き直ると静かに口を開いた。



「…多分また、お前を狙ってあいつ等がいろんな手段使ってやって来んだろう…。俺等が居ねェ時は、あんまり外に出んな…。出ても、極力誰かと一緒に居ろ。……わかったな…」

「………………。…はい…心配して下さって、…有り難う御座います。……蛮さんも、お仕事頑張って下さいね…」

「……ああ…」



桜羅の笑顔に、蛮は思う。

―――本当は傍で守ってやりてェ……が…。

そうも言っていられないのが現状。

そう心の中で淡く葛藤する蛮の腕に、不意に桜羅の手が触れた。

恐らく、桜羅自身気付かない、無意識の内に出た行動だろう。



「!?……どうした…」

「…………」



何も言わない桜羅。

顔を俯かせ、表情は窺えない。



「桜羅…」

「……あ…、ご、ごめんなさい…。な、何でもないです…」



パッと手を離し、慌てて再び笑顔を作った。

無理して作った笑顔だという事は、一目瞭然。

蛮は桜羅の手を掴み、己の方へと引いた。



「!」

「心配すんな…。さっさと仕事終わらせてくっからよ…」

「!…………はい……」



洋服越しに耳に響いてくる蛮の心臓の鼓動が、心地よかった。

そして良く響く声が、何よりも安心できる。

何よりも、心強い…。

蛮の背に手を回し、桜羅はギュッと抱き付いた…。
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