長編・第一部
□第九章 理由U―過去i―
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謎の抗体『X‐naught』を奪り還えせ!
第九章 理由U ―過去i―
屋敷が轟音を立てて揺れている。
証拠隠滅の為に、和臣が時限爆破装置のスイッチを押したからだ。
屋敷の上空には、一機のヘリが飛んでいた。
「あ〜〜〜…、蛮ちゃん〜、雪ちゃん〜…。どうしよう〜〜〜〜〜〜…」
銀次は瓦解していく屋敷を見上げながら、一向に出てこない相棒の姿を待っていた。
場所さえ判れば助けにも行けたのだが―――…、銀次は落ち着きのないまま、只々、無事に蛮達が脱出してくる事を祈った。
と、その時……。
銀次の後ろで、車が急ブレーキを掛けて止まった。
「銀次くん!」
「へ?……あ、雹さん!」
聞き覚えのある声に振り向くと、その車から出て来たのは、雪の兄・雹だった。
「銀次くん、雪は…」
「………それが…、まだ蛮ちゃんが出てこなくて…」
「…蛮くんが雪を助けに行ってくれてるんだね…?」
「…う、うん」
「…なら、蛮くんを信じよう。彼なら大丈夫だ」
「…、うん!…蛮ちゃんなら、絶対大丈……あっ!!」
大丈夫、と言おうとした銀次の目に、黒い影が映った。
それは見紛う事なき、蛮の姿だった。
「蛮ちゃん!…それに…雪ちゃんも!!」
蛮がシーツにくるまった雪を抱えて此方へ向かってくる。
「………良かった…。……あ、銀次くん。俺、ちょっと電話してくるな…」
「あ、はい」
そう言って雹は車に戻る。
まだ帰国していない両親に連絡を取るためだ。
「蛮ちゃーん!!こっちこっち!!」
「…おお。…奪還、してきたぜ」
優しい笑顔で、腕の中で眠る雪を見る。
「オラ、これ持っとけ…」
「これ…何?」
「雪の荷物一式と、今回の抗体の実験資料とサンプルだ…。雪の寝てる横に置いてあった…。……っと…」
言い終わると、蛮は銀次の後方に雹の姿を捕らえた。
「来てたんだな…雪の兄貴…」
「あ、うん。今先刻…」
すると電話を終えた雹が、蛮達の元へやって来た。
「蛮くん…」
「…奪還、完了だぜ……」
「……本当に有り難う、二人とも…。雪を奪り還えしてくれて…」
雪の顔を見て安堵した雹は、二人に礼を言う。
「雹さん、これ…」
銀次が資料とサンプルを渡す。
「これは…」
「それが雪に投与された抗体だろうぜ…。んで、そっちが恐らく今回の実験資料みたいだな…。そいつは奪還の対象じゃねェが、一応あんたに渡しとくぜ…」
「ああ…、有り難う。……さぁ、此処から離れよう。長居してると、この騒動だ…、警察が来るかもしれない…。……雪の為にも…此処から早く去ろう…」
言うと雹は車に戻り、蛮と銀次も車に乗る。
「………」
危機は去ったと、雹は崩れ行く屋敷を車の中から見上げた。
こうして、長い誘拐事件は終わった……。