長編・第一部

第十章 理由U―過去ii―〜目覚め…〜
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 もう、誰も自分の事に巻き込みたくないのに…。

もう、誰も自分の事で傷付いて欲しくないのに…。

どうして運命の流れは、私の思っている反対の方向へ進んでいくのだろう。

私は、嫌われているのだろうか…。

私は、望んではいけないのだろうか…。

ただ…大切な人の傍に居たいだけなのに…。



ただ…大切な人と……幸せになりたいだけなのに――――――……。






謎の抗体『X‐naught』を奪り還えせ!

第十章   理由U ―過去ii― 〜目覚め…〜



 桜羅邸の一室・リビングでは、雪の兄・雹と親友の鶫、そしてGBの二人が、雪の過去の出来事を話し、聞いていた。

窓の外……黒雲が空を覆い、今にも雨が降り出しそうな気配が漂う。

まるで、雪の過去の話を反映しているかのように…。



「――――――で……。もう一つの話ってのは…?」



しん…とする部屋で口を開いたのは、蛮。

『もう一つの話』とは、『雪の過去と“抗体”の結び付き』が一体何なのか、という事だ。

雹はコーヒーと一口含むと、気を取り直して、話を再開した。



「『新種の抗体:X-naught』がどういった物なのかって事は、知ってるかい?」

「いや…」

「そうか……。前にも言ったけど、俺もあんまり詳しい事は判らない。でも……蛮くんが持ってきてくれたこの資料を見て、何となく判った…」

「なんだったの?…『X-naught』って…」

「うん…。『X-naught』は恐らく……、『人体に於ける外因性及び内因性の損傷についての自己治癒力の促進剤』であり、そして『潜伏期間及び即効性の有する、ウィルス撃退の細胞強化剤』でもある……」

「!?」

「…………???(あう〜〜〜…全然、判んないよぉ〜…)」

「……っ、雹さん。つまり、それって何なの?」



タレる銀次と鶫は、些か…どころか、全く意味が判らず…、しかし、蛮は雹の言葉に僅かに反応した。



「ああ、ごめん。……つまり判り易く言うと、『どんな傷もすぐに治って、どんな病原体やウィルスもすぐに消滅させる事の可能な“抗体”』……って、事だと思う…。専門じゃないから、あまり断言できないけど……」

「だ、そうだ…。………、取り敢えず判ったフリしとけ、銀次…」

「…う…う〜ん……」

「それで、その“抗体”を発見したのが…」

「雪の本当の両親…、だろ?」

「ああ…。雪の実父母…『松漣巌』氏と『松漣湶』氏の二人が『X-naught』を発見したのは、今から十七年前。雪が生まれたばかりの時…。それから四年間に渡って抗体の研究を続け、雪が四歳の頃、二人は実験事故中に亡くなった…」

「「「『実験事故』…?」」」



蛮・銀次・鶫が声を揃えて問う。

雹は資料を広げながら続けた。



「何の実験なのか…。俺も、それに行き着いた時は信じられなかった…。実験の内容は、『抗体の耐久力』を調べるというもの。そして、その耐久実験の最終実験を……自分達の身体で行ったんだ……」

「自分達の身体で…?」

「そう…。彼らは四年という、長くも短い時間の中で、“人”以外のあらゆる生物で、抗体の臨床実験を成功させた…」

「……それで、最終実験で人体の記録を録るべく、自分達の身体で試した…って訳か…」

「…………、『人は【探究心】には勝てない』…」

「「え?」」

「……」

「誰かが…そう言っていた……。…本当に…そうなのかもしれない……。でも俺は…、たかが自分の身勝手な探究心の為に、幾ら他の生物で成功を収めても……、その為に自分の命を投げ出すなんて事、……許せないんだ…。一人取り残された雪を…、彼らは…一体どうするつもりだったんだ…っ……」

「「「………」」」



雪の事を思うと、雹はやりきれなかった。

そしてその雹の憤りに、何も言えなくなる三人。

雹は落ち着きを取り戻すと、すまないと一言謝り、話を続けた。



「……雪が実験体に起用された理由は…、松漣夫妻と同じ遺伝子を持つ事だからだという事に間違いはない…。和臣くんはそれを見逃さなかった…。………、和臣くんが『X-naught』を見つけてしまったのは……不運だったとしか言い様がない…っ……」



蛮は雹を見ながら、思っていた。



――――――自分の自己満足の為に、何の罪もねェ人間を…雪を、傷付けやがった……。

この報いは…必ず受けて貰うぜ…、……鷸坂和臣……――――――。



蛮の瞳には、憤りという名の炎が、宿っていた…。






――――――それからの後、内部告発により鷸坂和臣は刑に服す事となる。

だがそれはまだ…、暫く先の事となるであろう……――――――。
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