The Kingdom of GodU
□序章 悪魔が降りた日
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序章 悪魔が降りた日
この船は悪魔によって海底に沈められる、私を殺すために多くの犠牲を巻き込んで。
「お母様、私はここで死ななくてはダメなの。だから予備の船に乗ることは出来ない。」
四十半ばの女性は唇を噛み締め大砲が飛んできた方角を睨んでいた。
母は厳しく筋が通らないことが大嫌いな人だ。それでも母の瞳が揺れている。薄い黄色の瞳は私に訴えようとし、それを必死に止めていたのもその瞳だった。
「…ティーシャ。」
苦しそうに私の名前を呼ぶ母、私はそれに耐えなければならなかった。
ティーシャ、それは私の名であると同じに我が国の御三家の内の二家であるイェアリーとグリールの間に生まれた一人娘の名前だ。
私は生まれた時から嫁ぐことが決まっていた夫…殿下に初潮の始まりと同時に嫁ぎ、今ここにいる。
どんなことも我慢してきた。例え前の王族を一夜にして滅ぼし、国を乗っとった隣国の王女の息子でも。人間として認められていない酷い扱いを受けても。
けれど今回ばかりは逃げなければいけなかった。自分の身体にそんな人の子供を授かってしまったから。
国に残っていたら夫は私にその子供を無理矢理でも生ませるだろう。けれど私は夫の分身になるであろう子供は欲しくなかった。
だからと言って自分とも血の繋がっている子供を中絶する勇気もなく最後の手を打った。
‘国を離れて子供を生み、王の血をひいていることを隠し通す’と。
両親は首を縦に降ってくれた。父は命を掛けて私達を国から出してくれた。それなのに……。
「ごめんなさい貴方を生んであげられない。」
まだ膨れていないお腹を擦りながら涙目になった。そんな時に天使が現れた。