The Kingdom of GodU

□第十二章 湖の世界
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先ほどまで華やかな雰囲気に包まれていた会場が、今は底知れぬ冷気で満ちている。ホールの中央には国一番の権力を持つ男と、過去に権力を持っていた王の血筋の青年がいる。青年の体から発するものが会場を凍らせていた。

長年王族に受け継がれてきた威圧というものなのだろうか、あまりの気迫に圧倒とされて誰もが息を飲み、大統領はその場で跪いた。

王子はそんな大統領に見向きもせず、会場の人を見渡すことができる舞台の上へ歩き出した。中央に安置されている玉座の前で振り返り、人々を一眸すると、不意に膝を着き地面に手を着いた。ホール全体が揺れたが、彼は会場の人全員に聞こえるようにそれ以上の大きさの声を出した。

「皆さん、少々高い場所から申し訳ないのですが……コーラルを助けたいんです。どうか力を貸して下さい、お願いします。」

すかざず額を床に擦りつけるほど頭を下げる。それは俗にいう土下座で、そのまま青年は微動もしなくなった。

会場内の人は誰も口を開けない。息が詰まってしまい呼吸すら忘れている者もいたくらいだ。


この場にいる人の過半数は旧王朝時代から今の政府にかけての劇的な時代の変化を体験し、未だに根付いている身分制度と付き合っている大人逹だ。

つまり彼らは王や貴族出身の者が一般人に頭を下げる行動をすることを知らない。戸惑うのは当たり前だった。

その静けさを破る音は一人の男の拍手だ。大統領のボディガードの制服を着用した、オレンジがかった金髪の男。大統領夫人は何かを思い出したかのように口を開こうとしたが、一人二人と手を叩く音が次第に大きくなってホールを揺るがすほどの爆音になり、掻き消えてしまった。

「顔を上げてください。」

「王子、私は戦時中看護を行なってました。浅はかな知識ですが発汗がひどくなるはずなので水を飲ませた方が良いと思います。」

「いつまでも床に寝ていたら可哀想だな、俺布団持ってくる。」

青年が頭を上げるころ、彼の周りには先ほどまで関わりを持とうとしなかった人達が続々と集まってきていた。人々は次々に己の持っている知識を行動に移し始め、知識の正当性を討論し合っている。

「ありがとう」

か細い声で彼は呟いた。国民はにっこりと笑っているだけで誰も返答をしない。





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