The Kingdom of GodU

□第十六章 古の恋心
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軍隊と報道スタッフが押し掛けたのは私の予想よりだいぶ早かった。立法・司法・行政・軍治・報道を操っているのは大統領であり、制度的には彼と連絡が取れない限りそれらが動くことない。ゆえに最低でもあと少し時間がかかると思っていたからだ。

二国間の戦争が終わってから約二十年、たった一人の人間がすべてを統括し、反対意見を言う人を暗殺する歴史が続いている。人々がその裏に気付いたのは戦後の修復が終わり、心にゆとりができてからだった。

最初の事件は反政府の保守派だった人が変わり果てた姿で見つかったこと。山菜を取りに行く生番組が急展開をみせた瞬間、放送は暗闇に閉ざされたのが始まりである。後に電波の影響だと説明されたが、その番組に関わったすべての人が行方不明になったことにより不信感が急激に広がった。

年々不透明になっていく制度に不安を覚えるのは無理もない。徐々に王制だった昔を懐かしく思いはじめる人が増えていき、この惨事を引き起こした。

絶対王政を嫌い、革命を起こした。革命の中心にいた大統領が独裁政治を行い、人々が見放して絶対王政を懐かしんだ。人々の声に答えるために候補者を拐って、審査という名の悲劇を生み出した。

結局誰が悪いのかなんて、私にはわからない。しかしどんなに常識から外れていても肉親である父をこれ以上悪者にするのは心苦しく感じていた。

「ロゼ様、なぜ貴方がここに」

脱獄犯を捕まえにきた軍人達は心底驚いている。王族探しの活動内容は公にされておらず、今このイリュシェの宮殿では先日ラベンダー姫の肖像画を発見したことにより学者が調査に訪れているはずだった。

大統領がいないという確信があるからこそ、彼らはこの場所に訪れた。そんな彼らにとって私は厄介者以外の何者でもない。

はじめは皆が硬直したまま動かなかったが、逃げ出す者やため息を漏らし絶望する者、必死に言葉を繋ごうと勤める機転が利く者の三通りに分かれた。

せっかく呼んだのに間合いが悪いからといって追い返すわけにはいかず、だからといって室内に入れるわけにもいかない。どうやら父が決定的な失言を言うまで繋ぎ止める役目は私が担わなければならないようだ。

中が見えないように扉をしっかり閉めて、彼らと向き合う。報道員に生中継であることを確認してから、前を見据えて口を開いた。




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