The Kingdom of GodU

□第十七章 二人の古戀路
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頭に血が上って、辺りを物色し、剣を握ったことまでは覚えている。そこらへんから俺の意識は中庭の噴水近くにあった。

日が暮れてもじんわりと汗が出る夏の夜、目の前には黒髪を後ろで結わえた青年が立っていて、少し見頃が過ぎてしまったラベンダーの花を見て微笑んでいた。見頃が過ぎたと言っても未だに綺麗な薄紫色の花を見て、彼女と重ねていたのだろう。

この頃の中庭は、噴水の時間が終わってから違う楽しみが生まれる。ふんわりと漂う蛍も美しいが、耳を澄ますと時折秋虫の涼やかな鳴き声が聞こえていた。

もう少し経てば自然の情景と音楽が同時に楽しめる時期がやってくる、彼は共に共有したい人物を思い、胸を踊らせていた。

またその夜は不気味なほど人がいなかった。たまたま近衛兵に巡り会わなかっただけかと思っていたが、事は大きく変化した。


心臓付近を貫かれ地に伏せた俺はもう動けない。愛しい彼女を担いで去っていく男が憎い一方、血液が体からなくなっていくことに恐怖を感じた。

それは毒に慣れるために、また抗体を子孫に伝えるために服毒した時とは比にならない。死が訪れるまでさほど時間はなかったが、最後まで恐怖と絶望が頭の中にあった。

彼女との約束を果たせなかった自分の無力さが悔しかったが、掴んでいた剣をかろうじて握りしめることしかできなかった。


だが今はあの時とは違い、剣を取って振るう力が有り余っている。その喜びのまま目の前の相手を倒し続けた。

最後の相手が体制を崩し、好機を逃すまいと詰め寄った。自分はこんなにも強いのだと天に呼び掛けるように嬉々として剣を振るい上げる。全てを終わらせようとしたとき、誰かが背中にしがみついてきた。

ふと蘇るトラウマが全身の毛を逆撫でる。前は背中から剣を突き立てられて死んだから、必死で背後にいた相手の首を掴み床へ押し付けた。

先に仕留めてやる、そう念じながらジタバタ動く相手に馬乗りになり、剣を高々と挙げたところで筋肉が強張り動かなくなる。

下でもがいていた相手が、愛しくて仕方なかった彼女だったからだ。



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