The Kingdom of GodU
□序章 悪魔が降りた日
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「貴方なにやってるの?早く船に乗りなさい。」
見上げるとそこには桃色の瞳と同色の髪を一つに結わえてまとめている貴婦人がいた。後ろには緑の瞳と髪の男性が立っている、おそらく彼女の夫だろう。
「私は…今年十六歳です。まだ小さな子供がいる筈なので。」
震える声で髪をかき上げる。両親から受け継いだ葡萄のような艶のある漆黒の髪が上を向くのに邪魔だったから。
彼は私を殺すために最高に最悪な舞台を用意した。全員助かる分はある筈のボートを半分以下に減らしたのだ。ちなみに先ほどの砲撃でボートは粉々になったのだが。
「妊娠しているのでしょう。妊婦なら乗れるわよ。」
「でも…。」
口ごもる私、女性の手がいきなり私の頬をひっぱたいた。母と後ろの男性は驚き気味だった。
「なに戸惑っているの、子供には罪はないのよ?こんな所で命を犠牲にしてはダメ。」
引きずられてあと一隻しかないボートに乗せられる。それでも戻ろうとする私を押さえ付けて女は言った。
「貴方は私達の帰りを待っている娘と同い年なのよ。今日十六になる娘と。」
その声がとても悲しく聞こえ私は抵抗を止めた。それを見て安心した女性に私は聞く。女性は微笑み口を開いた。
「娘の名前はリーベラ=アーウィング=シュトラウスよ。会えたらよろしくね。私の名前は…」
その名前を聞いて私達親子は驚いた。桃色の髪、アーウィングという家、そしてその名前に。