The Kingdom of GodU
□第一章 薄紫の娘と水晶
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とても穏やかな日だった。春の日差しが暖かく、私はいつも通り厨房の窓の近くに椅子を持ってきて日光浴をしながら本を読んでいた。
昔は甲板で行なっていたが最近は毎日ここで読んでいる。その理由は私も乙女な訳で……簡単に言うと目当ての人がいるから。
そろそろ彼が来る時間だと胸を高鳴らせる。もちろん父親から借りた『歴史全集近代史編』という本の内容は頭に入ってない。
それでも必死に目を通していると少し低い声が耳に入ってきた。
「飲み物は如何ですか?」
「頂きます。いつもありがとう。」
氷がたくさん入った飲み物を受け取り、船員の顔をチラリと見た。
葡萄のような艶のある黒髪に紫水晶のような瞳が特徴のクールな年上の男性、私の想い人でもある。
彼は一礼するとすぐに厨房に帰ってしまう。少しがっかりし、彼が持って来てくれたアイスティーを口に含んだ。
冷たく甘いアイスティーが体に伝わり再び厨房の方に目をやった。
換気のために窓を開けている厨房の中には先ほどの彼がいて、紅茶を煎れる道具をしまっていた。
(日に日に上手くなるなぁ)
そう思いながらまたストローを吸い上げて甘い恋の味を楽しんだ。