The Kingdom of GodU
□第九章 胸に秘める思いは
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夏の夜、私は人生初の大失恋を味わった。その味は海水のようにしょっぱかった。
それを見守る一つの肖像画には幸せそうな二人の人物が描かれていた。一人は艶やかな肩まである黒髪を後ろで結わえた男性、もう一人は桃色の髪に薄紫色の瞳の女性だった。
裏には二人の名が記されている、歴史上最も有名だが実在していたことが確認されていなかった二人の肖像画が見つかったのはこれが最初で最後だ。
肖像画のお披露目会は近々開催される夜会の前に、ライディエン朝の宮殿で行われた。歴史的に偉大な発見だったため、多くの人が一枚の小さな肖像画のために訪れた。
「ママ?」
目を見開いて緑色の髪の貴婦人はそう呟く。じっくり見ると彼女の母親ではないのは一目瞭然、彼女の母親の瞳は桃色だったからだ。
しかし違うと分かっていても、その女性を知っている気がしてならなかった。
婦人の整った顔が歪む、脳裏に記憶の残像のような映像が痛みと共に浮かんで来るからだ。
「リーベラ」
不意に腕を捕まれ彼女は勢いよく振り返った。腕をつかんでいるのは大統領の部下の政治家の一人だ。夏の日差しを遮るためか、ボディガードがかけているサングラスを着用していた。
その反動で思い出した記憶は、同じようなスーツの男達に囲まれた記憶。女は顔色を変えて逃げようとしたが、男の力に敵うことができない。
その行動に疑問を感じた男はサングラスを外す。黒いガラスの下には真夏の空のような蒼い瞳があった。
「リーベラ!」
その顔を見てしばらくたった後、色素が薄くなっていた女の片目の瞳の色が元に戻る。彼らは再会を喜ぶ前に壇上にいる少女に視線を移した。
このお披露目会で私は有名人になった。絵の発見者という意味でもそうだが、肖像画に描かれていたメーシェルロイド=カンバート様、通称ラベンダー姫の生き写しだったからだ。
肖像画のおかげで大統領がこの宮殿で行なっていることが公になり、大衆の目が向くようになる。候補生は権力者の後ろ楯が得られるようになり、生活品や衣装などが自由に得られるようになった。
しかしたくさんの人から誉められ、感謝されても私の心は満たされない。謝る機会を与えてくれるはずの肖像画が全く違う方向にいってしまい、気落ちしてしまったのだ。
華やかなお披露目にうごめく暗闇に私はこのとき気がつかなかった。
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