The Kingdom of GodU

□第十章 暗闇は光を包んで
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「ロゼ」

脂が乗った大きな手が私達の少しの間に入り、少女をだき抱えた。私の姿を確認するとニヤリと口をつり上げる。

「……大統領」

「これはお嬢さん。娘に何をしたのだね?」

「苦しそうだったので背中を擦っただけです。」

男は壁を力強く叩いた。賑やかだった会場は静まり、男の娘だという少女は肩を震わせて苦しみに耐えている。私はそれを黙って見ていた。

「そんな訳ないだろ、正直に話せば刑罰を軽くしてやってもよい。」

「……」

私は出かかった言葉をグッと押し込めた。何を言っても、この人には通用しない。そして何より数日前に言われた欠点の指摘を忘れていなかったからだ。

「コーラルはそんなことしてない、なぁレイ。」

人混みから出てきたのは赤毛の青年ルカだ。その隣には数ヶ月前に王族の末裔だと正式に判明した王子がいる。彼は王朝時代の王族の衣装を身に纏っていた。長いマントに数々の宝石、腰に差してある剣まである。圧倒的な存在感と威厳は誰が見ても王そのものだ。

その瞳は一度私に向けてから視線を合わせないように反らし、大統領に向けられた。レイことレーウィン=ライディエン殿下は重々しい口を開く。


「彼女は何もしていない。早とちりは良くないのでは?」

会場が再び煩くなる。多くの人はコーラルの無実を知っている、しかし事実上国一番の権力者に意見できなかったのだ。それが王子の発言を聞き、彼に歯向かう動きが大きくなる。まさに鶴の一声だ。

男は一瞬怒りで顔を歪めたが、国民の前でそのような表情をしないのが彼である。気味が悪いくらいの笑顔を張り付けて、穏やかな口調を保つ。

「これは申し訳ない、娘のことになると前が見えなくなってしまってね。仲直りの印に飲み物でも如何かね。」

変貌する大統領を周りは親身になって許し始めた。寒気を感じて私は自分の肩を抱く、まるで私の中の何かが警告しているようだった。

しかしこの雰囲気で断るわけにもいかない。金縛りにあったように体が動かなかったため、視線だけをルカや王子に向ける。彼らは大統領の申し出に素直に従おうとしていた。

縋るような視線に気が付いた王子は一瞬視線を合わせると再び離してしまう。その時、私は本当に嫌われているのだと自覚した。

彼とはもう関係を戻せないと思うとすべてがどうでもよくなった。感覚で感じた警告のことなど忘れて、私は彼等に付いて行った。




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