The Kingdom of GodU

□第十三章 光を求める人達
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ホールに乾いた音が響き、女達の悲鳴が木霊した。いつまで経っても痛みが襲ってこないので恐る恐る目を開くと驚いた顔をしている父親が目の前にいる。落ち着いて頭の中を整理するとジンワリと伝わってきたので自分は倒れなければならないのだと悟った。

私の体は過剰な毒の投与により少々触覚が麻痺している。意識を集中すればわかるので誰にも知られていない秘密だが、今回の毒で更に機能が低下したのがわかる。もうじき期限が来ることはわかっていたのだから今終わってもかまわなかった。

このまま倒れたら楽だろうが、最後に私にも血が通っていたことを確認したいという僅な好奇心が目線を下に向けた。本来なら胸がある場所、しかし予想とは違い目の前には誰かの背中があって暗い赤色が広がっている。

肩にもたれかかる顔を覗き込むと、私にいつも笑い掛けてくれた青年の悲痛で歪んだ顔がそこにあった。

「ルカさん?」

呼びかけると固く閉じていた瞼が開き、少し濡れている赤銅色の瞳と目が合う。赤い瞳の中にいる私は無傷で、父と同様に純粋に驚いていた。彼は息を吐いて体の力を抜くといつも通り微笑んだ。
「あなたが“脅える”以外の表情をするのは初めてですね。」

そう言うと彼は、脇腹から止めどなく流れる血が幻だと感じてしまうほど軽々と立ち上がり、私の腕を引っ張って立たせてくれた。周りが再び煩く感じたのはこの瞬間だけだった。喉元で詰まっていたお礼の言葉を音にしようとし、側で見ていた父親が口を挟んでくるまでは音に満ちた世界にいたことを俄に思い出していた。

「貴様、邪魔するな!」

私の世界は急激に父の声だけに支配された。見上げると右手の洋刀は高く降り上げられていて、軌道は彼の胸部を通ろうとしている。

私は瞬時に父親の前に立ちはだかり、青年を守ろうとした。





親に切り離された私には居場所はない上に私の身体は痛みを感じない、何も条件は変わってないのに先ほど拳銃を突き付けられたときに受け入れられた死が、今は少し怖かった。

広げた腕が恐怖で震え、目を閉じることすら忘れて刃物が近づくさまを見守った。父は躊躇することなく剣を降り下げている。

それにも関わらず、刃は予定時刻に私の体を通過せずに頭の上でピタリと止まった。いつの間にか金髪の男性が父の背後にいて、後ろから父の腕をつかんでいたのだ。その力はほぼ互角で刃はあまり動かない。

刀と金髪の男性を見比べていると、後ろからルカに強く抱き締められて彼の右足を中心に私の体は勢いよく回転した。反対に出てきた彼の左足が見事な弧を描きながら父親の左手にある拳銃を払い、飛んでいった鉄の固まりは傍観していた民衆の手に修まる。どうやら私は遠心力を強くするために使われたらしい。

今まで起こったすべての出来事があまりにも非現実的すぎて、呆然と父や飛んでいった拳銃を交互に眺めていることしかできなかった。その間青年は何かを思い出して王子に向かって叫ぶ。
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