The Kingdom of GodU

□第十六章 古の恋心
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「あの日、コーラルが船から降りて来なかった日にママの旧友を訪ねると言ったよね」

不意に父が語りかける。諭すような落ち着いた声は心地よく、また彼の瞳は穏やかで世界を包む大空のようだ。

「ママの旧友は民間に嫁いだ元貴族令嬢だ。かつてのオーウェン=キスリングの許嫁の一人で、パパと共に学園生活を過ごしたこともある。その学園に子供達を通わせるために、あの日彼女の子供を引き取りに行く予定だったんだ」

「リフは今、彼女の子供と共に学校に通わせているよ」という付けたしを加えて、私をなだめるように額を撫でる。大きくてゴツゴツした手は頭痛で痛む頭を包み込むような温かみがあって心地よい。

話に聞くと私が数多の贈り物から選び抜いて現在着ているこの服は、貴族邸にいる弟からの贈り物らしい。名前も手紙もなく不思議だったが、よくよく考えると納得する節がたくさんある。

汗で湿って足に張り付いている白いワンピースに再び目をやるが、やはり可愛いデザインだと思う。よくこれくらいのスカートを履いていたし、靴のサイズやヒールの高さも文句の付け所なく完璧だ。

何でもそつなくこなす弟は本人以上に私の好みを熟知している。リフが無事でいること、また親から説明を受けて自分の道を歩いていることに心にあった痼が解れていった。

握り締めていたネックレスから手を離し、お腹の上あたりに手を添える。強張っていた筋肉が緩み、体が楽になった。

「じゃあママもパパの許嫁だったのね」

軽い気持ちで質問した答えは父から帰って来なかった。自然ともう一人の回答者の方へ視線を写すと、どこか悲しげな笑みを浮かべた女性は強い眼差しで私を見つめている。

深い緑色の瞳は何事にも動揺しないと言えるほど落ち着いている。抱きかかえられ見下ろされているため、いつもより瞳孔が少し大きくなっていた。

他に構わず真っ直ぐにその瞳孔を見つめると、その奥に青みがかった色彩があるように思えて忘れていた夢の出来事が断片的にちらついた。

夢の中で私は母親とそっくりの少女を窓から突き落とした。暗かった部屋の中で一瞬だけ強い光が生まれ、彼女の緑色の瞳が青く煌めく……その瞬間に私は誰かに許された気がした。

母の瞳のことは今初めて知ったのに夢で見たなんて、あれは予知夢なのだろうか。




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