The Kingdom of GodU

□第十六章 古の恋心
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「ママは途中から貴族になったのよ。王政時代禁止されていた身分差結婚によって生まれた子だから学校には通えなかった」

母親が質問に答えたのは唐突だった。考え事に没頭していたため、感情の変化に気づけなかったのだと思う。

徐々に意味が伝わってきたが、私が顔を真っ青にするなど当然の反応を表さなかったため、両親が異常に心配していた。

母が子供だった頃、王政時代では大まかに王・貴族・平民という身分があり、人口的に大多数を占めていた平民は他二つの身分の人と結婚する自由が認められてなかった。つまり身分差結婚をした男女のうち、平民出身の方だけ罰せられる不平等が当たり前とされていた時期がほんの少し前まであったのだ。

中立な立場であるはずの教会でさえ、異端の子供には汚れた血が流れていると言っていた時代である。そんな時代に突如それを知り、運命を受け入れて貴族階級に入り込んだ勇気は到底真似できるものではないだろう。

しかし私の立場で考えると、驚愕するのはなにか違うと感じた。並外れた精神力を持つ今の母を生み出したのは紛れもなくこの境遇のおかげだ。また父親と出会い結ばれなかったら私は存在していなかったことを考えると卒倒する理由が浮かばないのだ。

親が歩んだ過去を非難するなどとんでもない。むしろ時代が変わった今を生きる私としては、母の両親……私の祖父母は人として正直に生きた方々なのだと純粋に誇りに感じたのだ。

「お祖父さんとお祖母さんはきっと素敵な人だったのね」

会話としては脈絡がなかったが、呟いた言葉はきっと母に届いただろう。強張っていた顔の緊張が溶けて、泣き出しそうな笑みが浮かび、言いたいことが伝わったのだと感じた。

「あなたのお祖母さんは使用人だったの。御曹司をたぶらかした平民の女という理由で悪女呼ばわりされていた。でもねコーラル、あなたが母の血筋を証明してくれたのよ」

母親が話終わり、私が新たに疑問を抱く少し前に家族の会話は終了した。そのとき父親は私の胸にある紫水晶のネックレスを拝むようにずっと見つめていた気がする。



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