The Kingdom of GodU

□第十六章 古の恋心
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耳障りな金属音と共に、何かが床に落ちる音が重なった。反射的に音源の方角を見ると、二人の男性が向かい合っている一場面だけが視界に入る。

こちらから表情を観察できたのはみすぼらしい服装の老人だ。一見眉を潜めたくなる身なりだが、どことなく滲み出る品格がとても美しい……一言で述べるとミスマッチを絵に書いたような人物だった。

そんな老人の前に立ちはだかるのは、何処かで見たことがある不思議な服装をした黒髪の若者である。一見彼らには共通点がないが、二人仲良く騒音を出したのは確かだ。

私は音の発信源に人がいたことに安心して、胸を撫で下ろす。筋肉の強ばりが解れると急に脱力感が生まれ、元からあった疲労と共に眠りへと誘った。

親が強く私を抱き締めたことに疑問を抱かず、むしろその力強さに安心して瞼を閉じようとしたとき、頭の中で誰かが「ダメだ」と警告した。

寝てはいなかったが、まさに寝耳に水だ。脳内に響いた女性の声は目覚めた私に乗り移って動き出し、気だるい体に鞭打って瞬時に起き上がらせてしまった。




先ほどまでだるくてどうしようもなかった体だが、横たわっていた状態からいざ座ってみると、意外にも普段と何も変わりはなかった。

目を覚ましたときは感じられなかった触感が戻ってきていて、タイルの冷たさがじんわりと伝わってくる。近くにいた母親の顔も認識できないほど霞んでいた視界も、今では鮮明に世界を映していた。

考えてみればいつの間に眠っていて、目を開いた早々に病人扱いをされたのだ。たしかに不調だったので両親の過剰な心配に答えるように大人しくしていたが、起き上がってみると自分の力がまだ健在であることがわかり、徐々に気持ちが明るくなる。

親の手を振りほどきながら、警告に従って再び現状を知ろうと身を乗り出したとき、私は新たな事実を目の当たりにした。

彼らの体には所々刃物で切られたような生傷がある。初めは何か大変な事故に巻き込まれて粉砕した窓硝子で傷つけたのかと本気で考えていたが、手にしている銀色の棒を確認して言葉を失った。

パイプのようだと思っていたそれは予想以上に鋭利で、紛れもなく真剣だった。老人の剣が折れてしまい、黒髪の若者が嬉々として止めを差そうとしている真っ最中、先ほどから見ていた場面は人が人を殺そうとする瞬間だったのだ。

恐怖や困惑といった自然な感情よりも、その瞬間に魅せられて動けずにいる自分がいる。息を飲んで、結果を待っている自分に何の抵抗を抱かない。

どこかで見たと思っていた若者の服装は、大好きな父親の歴史書に載っていた王族の服と類似しているのだ。目前での出来事は本の一頁を切り取ったように鮮やかに忠実な瞬間で、私の頭には結末を伝える文字が鮮明に見えていた。




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