The Kingdom of GodU

□第十六章 古の恋心
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歴史書の挿絵として見た世界には老人がいて、死期を悟ったような穏やかな微笑みを浮かべていた。その瞳は何処に焦点が合っているのかわからなかったが、ふと私の視線と交わり、急に輝きが戻ってきた。

色褪せた白髪とは異なり年老いて一層輝きを増す緑琥珀の瞳はとてつもなく美しい。船の乗組員である青年が所持していた金細工の腕輪の宝石と似通っているが、記憶にある宝石より彼の瞳の方が断然綺麗だった。

老人は私を見て硬直していた。玉座の横に掲げられていた“私が見つけた肖像画”に視線を反らして、また私を凝視する。絵画の人物と視線が合うなど、なんとも言えない居心地の悪さを隠せずにいると、ついに気恥ずかしさが限界に達したのか視界が霞んであり得ないものが映った。

老人がいたはずの位置には中性的な顔立ちの少年が立っている。艶やかな黒髪に綺麗な服を纏う少年はこちらを凝視していて、嬉しそうに微笑んだのだ。その瞳の色は老人と同じ綺麗な緑琥珀の色だと感じたのも束の間、少年は元の老人へと姿を変えた。

「シュディ?」

私の唇は知らない声と同調し、知らない名前を口ずさむ。その声が彼に届いたのか、彼は一筋の涙を浮かべながら瞳をゆっくり閉じた。

絵画の一部から全体を見渡し、彼の行く先を見た私は驚愕する。人が殺されそうになる瞬間を目の当たりにした恐怖、被害者が生身の人間であったことを知る恐怖、そしてその加害者が腕輪の持ち主であった恐怖が傍観している自分と結び付いてしまった。

何も考えず、ただ私は絵画と思っていた世界に全力で入り込んだ。




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